旋律の果てに

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雨の日から1年後。 車で職場に向かっている途中の信号待ち。 普段と変わらない出勤の日常の出来事。 その日は何故か、赤信号でふと隣の車線を気にした私。 私と同じように赤信号で止まっている車。 車の運転席には、端整な顔立ちで眼鏡を掛け知的そうな男性が座っていた。 綺麗な人だなと見ていると、視線がぶつかりお互いに何気なく会釈をする。 あの人何処かで見たような……? 前を向きつつ、さり気なく隣に視線だけ向ける。 考え込んでいる間に信号は青に変わり走り出す彼の車。 後方からクラクションを鳴らされ、慌てて車を走らせる私。 あっ、思い出した!あの時の傘の人!?あの綺麗な顔は間違いない! 今も車の中に置いてある黒くて大きな傘。 また、偶然会えたら返そうと思っていたその傘に一瞬目を向け、またなんだか少しだけ心が温まったような気がした。
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