旋律の果てに

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(こんな偶然ってあるんだなぁ。もし今度会えたらキチンと傘を返さないと!)と思いつつ、職場に到着。 私はあの日からずっと仕事に打ち込んでいた。 私の仕事は、いわゆるピアノ調律師。 ピアノ調律師と言うと、ピアノの音を調整するだけだと思われがちな職業ではあるけれど、それだけではない。 「整調」、「整音」、「修理」もピアノ調律師の仕事。 「整調」と言うのは、鍵盤の高さや深さを揃えて、それぞれの部品の位置と動きを揃える作業の事。 自分の目と指先の感覚を使って、時には100分の1ミリの精度で調整する事もある。 「整音」は、全ての音を揃えて、演奏するお客様の好みの音に近づける作業の事。 「修理」は、切れた弦を張り直したり、すり減った部品を交換したりする作業の事。 ピアノ調律師は、これらの作業全てを行う。 ギターとか他の楽器だと、大抵は演奏する人が自分でチューニング(音の調整)をするけれど、ピアノの場合は、演奏する人とは別に、私達専門のピアノ調律師がチューニングをする。 そういう意味で、ピアノは珍しい楽器でもあるし、ピアノが好きな私にとっては自分に合っている適職だと思っている。
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