旋律の果てに

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「お早うございます!」と、いつもの様に職場に現れる私。 「おっ、雫ちゃん!お早う!」と、ポンと私の頭に手を乗せてわざわざ覗き込んでくる守谷(もりや)先輩。 「もう、顔が近いんですけど!」と少し膨れた顔で返す。 専門学校の頃の先輩でもあり、尊敬する調律師の先輩の守谷先輩。 偶然、同じ職場になり久し振りに再会をしてこの職場で仕事を始めてから、学生の頃のように色々とアドバイスをしてくれていた。 私には出せないような音を調律する守谷先輩のピアノ調律師としての腕は、純粋に凄いと思う。 「あはは、そんなに膨れんなよ。空気が抜けなくなるぞ?」と笑いながら私の頬を少し引っ張る守谷先輩。 「いだいでずっで〜」と返すと更に笑われた。 守谷先輩には本当によく面倒を見てもらっている。 人を惹きつける魅力がある人って、こう言う人の事を言うんだろうな、と思う。 やっと守谷先輩の手から解放された私は少し大袈裟に痛がりながら、いつもよりも上機嫌な守谷先輩に話し掛ける。 「なんだか今日は機嫌がいいですね。何かいい事でもあったんですか?」 と聞くと 「えっ?!分かる?やっぱり雫ちゃんには分かっちゃう?」と肘を私の脇腹にウリウリと当ててきた。
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