旋律の果てに

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「ちょ。気持ち悪いんですけど」と言うと 「そんな事言わないで聞いてくれよ〜」と言う先輩。 「はいはい、聞いてあげますよ。何があったんですか?」と先輩の肘をさり気なく避けながら聞くと 「俺さ、今の彼女と婚約したんです!」と腰に両手を当てて偉そうに踏ん反り返る先輩。 「えっ!凄いじゃないですか!おめでとう御座います!」と素直に拍手をすると 「いやぁ、有難う!有難う!」と女子ウケするような綺麗な顔がふにゃ〜とだらし無く緩んでいる。 喋らなければ、もっとモテるんだろうなと思いながら。 その顔がなんだか可笑しくて、拍手する事を止めしばらく笑ってしまった。 そんな私の事すら気にならないかのように 「俺も婚約出来るとは思ってなかったから、本当に嬉しいんだよ……」と、急に泣き真似をし出す先輩。 「あのぉ、先輩……ちょっと大丈夫ですか?」と聞くと 「俺は男だ!ちゃんと一生賭けて守ってやる!」と誰も聞いていない事を口走り始めた。 人間は嬉し過ぎても情緒不安定になるのかと疑問に思った瞬間だった。 周りの社員も、遠巻きに聞きながら少し引いていたみたいだし、ね。 それでも、まだ喋り続けている先輩を後目に自分の席に座る。 今日も一日頑張らないと!と自分に喝を入れながら修理道具を鞄に詰める。
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