#12 浮かれ、忘れていく。

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 ちょうどあと五分で上映されるホラー映画があった。私は急いで(桃弥に教えて貰いながら)チケットを買い、なかに入る。ギリギリだけど、席はけっこう空いていた。人目を気にしなくて良いな、と思った。  真ん中辺りに座り、大きなスクリーンを見つめる。  映画は、すぐに始まった。 「…………もう、絶対に見ません」  とぼとぼとショッピングモール内を歩きながら、静かに呟く。 「あははっ。胡桃、途中から耳塞いでたし。絶対目も瞑ってたでしょ」  桃弥に笑われ、口を尖らせてしまう。 「あんなの、ズルいですよ。いきなり怖い顔が画面いっぱいに映ったり、大きい音鳴ったり……。心臓に悪いです」  でも、正直、桃弥が悪霊になりかけた時の方がゾッとした。  映画は、ただただビックリするだけだった。……監督は、本物の幽霊とか見たことあるのだろうか。全部、想像で創ってるのかな。 「映画に出てきたみたいな幽霊って、実際にいるんですか?」  何の気なしに、聞いてみた。  すると、桃弥は暗い顔をして俯いた。  しまった、と思った。 「もっと怖いのが、いっぱい居るよ。俺みたいに、ただの幽霊だったらそうでもないんだけどね。悪霊とか地縛霊になったら……人のカタチしてないから」  言うと、あっ、とすぐに顔を上げた。  そして微笑んで見せる。 「でも、俺が地縛霊になっても、本当に気にしなくていいからね。多分、胡桃には見えなくなると思うし」  勘だけど、と桃弥は付け足す。  モヤモヤが、胸のなかに広がっていく。 「見えなくなるって……」  うん、と桃弥は優しく頷いた。 「俺と出会う前の日常に、戻るだけ。俺は、胡桃が生きていてくれたら、それで良いから」  私は顔を逸らしてしまった。  ……嫌だ、そんなの。  桃弥がいなくなったら、私は――。 「大丈夫!」  耳元で桃弥が大きな声で言うので、少し肩を上げてしまった。  桃弥は相変わらず良い笑顔で言う。 「まぁ、あと五年は何もしなくても大丈夫そうだし。のんびりいこう」  ね、と頭を撫でられ、私は笑顔をつくった。  それから、自分に言い聞かせるように言う。 「そうですよね……今も、隣に居ますし」  うんうん、と桃弥は頷いた。  胸のなかのモヤモヤは、徐々に晴れていった。  あれ? これで、いいんだっけ。  一瞬、不安が過ぎったけど、まぁいっか、と思った。
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