#1 私が貞子になった理由。

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#1 私が貞子になった理由。

【事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである。 ――ニーチェ】  曇天が一瞬白く光り、数秒後に音が鳴った。風でガタガタと鳴る窓を見て、前髪にだけヘアスプレーをふる量を増やす。まだ着慣れない制服に袖を通し、スカートのポケットに手鏡とコームが入っているのを確認すると、一階に下りる。出来るだけ、静かに。朝ご飯は食べない。お父さんに会わないようにしたいから。  けど、ドアノブに手をかけると、リビングの方から声がした。 「いってらっしゃい」  もう二度と帰って来るなよ。勝手に、そんな声が聞こえてきて、心臓にガラスの破片が飛び散ったような痛みが走る。 「はい、い、いってきます」  震えた声で返事をして、外に出た。    お父さんが、どうして時々声を掛けてくるのか、よく分からない。  最近まで……私を遠ざけて別々に暮らしていたのに。
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