#1 私が貞子になった理由。

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 家を出てからまだ数分しか経っていないのに、百均で買った傘が小さいのか、スカートの膝から下はずぶ濡れになってしまった。あぁ、先週、数学の時間が大嫌いだからって二日連続で休まなければ良かったな。せっかく晴れていたから行けば良かった。そしたら、出席点を気にして、こんな日に満員電車に揺られに行くこともなかったのに。一歩踏み出す度、ローファーのなかに溜まっている水がぐじゅっと音を立てて気持ちが悪い。    向かい風に吹かれて傘が裏返りそうになるのを手で押さえつつ、なんとか学校に辿り着く。校舎の時計の針が授業開始十分前を指しているのを見て、私は急いでトイレに向かった。用を足す為ではなく、乱れた前髪をなおす為に。  既に、鏡の前は談笑する集団に占拠されていた。でも、問題ない。私は最初から個室に入るつもりだからだ。酷く丁寧に整えているところを誰かに見られるのは、やっぱり恥ずかしい。  迷わず一番奥の個室に入ろうとしたとき、カシャッと足元で何かが落ちる音がする。手鏡だ。一瞬、自分のものかと思ったけど違った。多分、この集団の誰かのものだ。大きな笑い声を上げていて誰も気付いていない。  手鏡を拾い上げると、キュッと唇を引き結び、大きく深呼吸をする。そして、一番近くにいる人の肩を叩いた。 「……これ、落としましたよ」
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