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楽しそうな笑い声が一気に止み、みんな私を振り返る。視線が痛い。人の目が見れなくても、こればっかりは感じ取ってしまう。少なければ、苦しくはならないのだけど……。
胃が強く締め付けられ、たった数秒間が凄く長いように感じた。
そのうち、私が肩を叩いた人の隣にいる人が声を上げる。
「あっ、それ私のだ! ありがとう」
ひょいっと私の手から鏡を取ると、何やらアイコンタクトをし合い、また笑いながら出ていった。ひとり胸を撫で下ろしていると、よく通る声が聞こえてくる。
「ビックリした。貞子かと思った」
「ね、何あの前髪。長過ぎでしょ」
「てか誰?」
「知らなーい」
特に傷つくことはない。やっぱり、と思うばかりだ。
私は個室に入り、長い前髪にコームを通す。見え過ぎず、見えなさ過ぎず。恐怖から守ってくれるように、壁を整える。
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