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#2 君が見えるようになった。
賑わう教室に入り、俯きながら人の間を縫って自席に向かう。今の席はとても気に入っている。席替えは月単位で行われるから、どうにかして三十日以上に延ばせないかな、とふと真剣に考えてしまうくらいに。窓際だし前から二番目で黒板も見やすいし、それに――。
「胡桃ちゃん、おはよ~」
この教室で、というか多分、この学校で唯一私に話しかけてくれる人が、前の席に座っているから。
華井麗葉さん。名前に負けず劣らず、身も心も美しいお方だ。
この人だけはきちんとフルネームで覚えている。漢字も書ける。
「おはよう、ございます」
私はしっかりと頭を下げて挨拶を返す。
「はぁー。どっかにイケメン落ちてないかなぁ」
華井さんが、両拳の上に顎を乗せて切実そうに呟いた。
「……イケメン」
「やばっ。私、今口に出してた?」
パッチリとした目を更に開いて見上げてくる。私はつい目を逸らしてしまう。それでも、長いまつ毛が今日もよく上がっているのが見えた。きゃるん、という音が鳴ったような気もする。……華井さんは、上目遣いの練習でもしているのだろうか。私がしたら怨めしい幽霊みたいになるんだろうな。
机の横に鞄を掛けると、姿勢を正して座り、私は返答した。
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