Book1「三十二年の孤独」

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「でも、西村さんはまだいい方なんですよ。本館勤務なんですから。 実は……たいへん言いにくいんですが」 原さんは本当にすまなそうな顔と声になった。 「井筒さんには……」 そう言って告げられたわたしの次の勤務地は、東京二十三区を軽々と飛び越えて、武蔵野の地も難なく乗り越えた……東京都の西の端の町だった。 いやいやいや、世の中には北関東三県や山梨などからも都内に通勤されている方もいらっしゃる。贅沢を言ってはいけない。 だが……いかんせん、わたしの住んでいる場所が悪かった。 ……二十三区の東の端で、お隣はもう千葉なのだ(埼玉の南東部にも接してるけれど)。 自宅から最寄り駅まで行くのにも、周辺に駅が少なく、同じ区の人に『陸の孤島』って呼ばれている地域だから自転車でかなりある。 なのに、電車が向こうの最寄り駅に到着してから、さらにバスで三十分行かねばならないその図書館へ通うとなると、どんなに短く見積もっても、片道三時間以上かかる。 通勤時間が往復六時間以上なんて、毎日がプチ旅行だ。 ……とても、通えない。どうしよう。
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