Book1「三十二年の孤独」

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わたしは井筒(いづつ) 櫻子(さくらこ)。今年で三十二歳になる。 小学生の頃、わたしは両親を同時に亡くした。 猛スピードでカーブを回ったために対向車線に飛び出してきた未成年の飲酒運転の車と、父の運転していた車が正面衝突したのだ。 車の前方はめり込んで、原型を留めず大破した。 助手席にいた母もろとも即死だった。 不幸中の幸いでわたしは乗っていなかった。 それ以後、大学を出るまで育ててくれた母方の祖母も数年前に他界した。 わたしが仕事に行っている間に倒れたのだ。 たまたま回覧板を持ってきた近所のおばちゃんによって発見されたが、倒れてから半日ほど時間が経っていた。 結局、それから一度も意識を取り戻すことなく息を引き取った。 ほかの祖父母もすでに鬼籍に入り、両親は一人っ子同士で、おまけにわたしにも兄弟姉妹はいない。 ……だから、わたしは天涯孤独の身である。
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