Book1「三十二年の孤独」

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「そんなとこに通えないじゃないですかぁっ! 原さんだって知ってるでしょ? 櫻子さんのおうちは、亡くなったおばあちゃんから譲り受けた大切な家だから、離れられないって」 そうなのだ。 古い家だが天涯孤独のわたしにとっては、両親や祖母との思い出が詰まったあの家だけが「家族」なのだ。 「うん、だからね」 原さんは慈悲深そうな笑みを浮かべた。 実際、彼はだれに対しても親切でやさしい。 今だって、立場的には「上司」の彼に刃向かう真生ちゃんにでも、態度は変わらない。 「井筒さんに提案したいことがあるんですよ。 業務が終わったあと、少し時間をいただけませんか?」 わたしは肯いた。
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