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「これは……俺の、部屋?」
「そう。この湖はいわば、手鏡の鏡の部分。その向こうには、君の世界が広がってるんだ。けれど、自由には行き来できない。その資格があるのは――」
ぼうっと湖を覗き込む俺の身体を横から抱きしめたセチリヤさんは、甘く蕩ける吐息を耳に吹きかけ、俺の頬を舐める。
「やあっ」
「……その資格があるのは、心の欠片を鏡に落とした人だけ」
甲高い声を出してしまってから、チェシィアさんを抱きしめているみたいな柔らかさと温かさに包まれ、顔に触れた人肌の温度に鼓動が高鳴る。
「しょっぱいって聞いたけど、君は甘い」
「は、はぁ!?」
「まぁまぁ。そこに座りたまへ~」
どこか噛み合っていない会話と、火照った身体。セチリヤさんに弄ばれているような気がして腹が立った俺は、セチリヤさんが指差した一対の切り株のうち、大きい方を選んでどっかと座った。
「よいしょっと。さて、君が落とした心の欠片だけど」
セチリヤさんは、ネグリジェの胸元に手を突っ込むと、中から何かを取り出した。
それは、半欠けのハートの形をした水晶のようなものだった。
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