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3.S E T I L I Y A
「部屋の乱れはうんたらって言うでしょ。結構多いの。部屋を片して心がすっきりした人が、心の欠片を落としちゃうこと」
言葉尻を挙げ、身振り手振り言うセチリヤさんはセールス番組の司会者みたいだった。
そこで、こちら。手鏡!
今ならなんと、一つお買い上げで三個セットが二つ付いてきます!お得!
そんなにいらないなぁ。
「君のコレは……恋煩い?」
「こっ!?」
「ありゃ、違った」
「――まあ。違う事も、ないことは、ないような気が、しなくもないというか」
「どっち?」
「……なす」
「わお、えっぐぷらんつ」
インチキ占い師の占いでも受けてる気分になってきた。
鏡の世界の住人とやらは、お道化た表情を鎮め、真剣な顔つきになって言った。
「君は君だよ。臆することはない。本当の君を受け入れてくれる人は、必ずいる。このハートのもう半分を、受け取ってくれた人みたいにね」
「それって……」
セチリヤさんの言葉に、大好きな友達の顔が浮かんだ。
ついこの間まで、友達だった、あの子の顔が。
「この半分も、だからきっと受け取ってくれるはずだよ。このセチリヤが保証する!」
「それはなんかちょっと」
「え、えぇ……」
でも、そっか。そうかも。
あの子は、俺の気持ちを受け入れてくれたみたいに、本当の俺の事も受け入れてくれる。
誰よりも大切なあの子の事を、俺が信じないでどうする。
「まあ、ありがとうとは、言っておくよ」
「素直に言ったらもう一回ハグしてあげたのに」
「しなくていいです!」
「ケチだなぁ」
「あんたがしたいだけでしょ!?」
セチリヤさんにからかわれていると、その手に握られていた半欠けのハートが、俺の胸に引き寄せられてきた。ちょうど胸に触れるあたりで静止すると、柔らかく薄い光を放ち、砂のように溶けた水晶が、身体の中に入ってくるのが分かった。
心の欠片が、戻ってきたのだろうか。
「うん。もう君は大丈夫だ」
「元の世界に戻れるって、こと?」
「うん。君、面白いからずっと居てもいいんだけど」
「よっしゃ、早く戻ろ!」
「うん、まあ。冗談だけどね。また会える事を楽しみにしつつ、もう二度と来なくてもいんだよと、僕からのいつもの挨拶を」
そう微笑んだセチリヤさんに手を引かれ、湖の中に落とされた俺は――。
次の瞬間、目を覚ますと片付けたばかりの部屋に居た。
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