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青月:青く輝く月
目を開けると知らない天井が目に入った。
「――ん、あ……れ…?けほけほ」
喉が痛く声は掠れている。
その代わりと言ってはなんだが、頭も身体もすっきりしていた。
久しぶりにゆっくり寝たおかげだろう。
もそもそと起きて部屋の中を見回す。
知らない部屋だ。
――何で…?
と考え昨夜の事を思い出す。
昨日河内に連れられて2軒目の店で変な薬を飲まされて……。
そこまで考えて昨夜の恐怖を思い出しガタガタと身体が震えだす。
「起きたのか?」
昨夜俺を助けてくれた男がコーヒーカップを手に部屋に入って来た。
昨日はオールバックにしていたと思うが、今日は前髪も降ろしていて少し若く見えた。
それでも俺よりは年上だろうけど。
男も起きたばかりなのかくわっと欠伸をしている。
それが妙に可愛く見えてドキリと心臓が鳴る。
そこそこ整った顔立ち、細く長い綺麗な指。
この人の手で俺は……。
中心に熱が集まりそうになるが、
「これ飲んで。ほっとするよ」
という男の言葉に熱は拡散する。
手渡されたコーヒーカップを両手で受け取り、こくこくと飲む。
ミルクたっぷりのコーヒーが身体の中をじわりじわりと流れていくのが分かる。
ほうっと息を吐く。
さっきまでの恐怖感が薄らいでいくのを感じた。
「なぁ、あんた身体は大丈夫か?一応水分を充分に取らせたし、沢山出させたから薬は抜けてると思うんだけど」
出させた。何を?と聞かなくても分かる。
目の前の男によって散々俺の中心は弄られイかされた。
思い出し、顔がカッと熱くなった。
男のさばさばした物言いにどぎまぎとしてしまう。
「あの…昨日はありがとうございました…」
「あぁ、まぁよくある事だから気にしなくていい」
男の事もなげに言うよくある事という言葉になぜかちくりと胸が痛む。
俺以外にもこの人の手で……。
「それで、あんたクビになってこれからどうするんだ?」
「あーえーと………」
急な事でまだ何も考えられていない。
俺は会社の寮に入っているからクビになったという事は出て行かなくてはいけないわけで、職も住む所も一度に失った事になる。
一気に自覚して、はぁっとため息をついた。
「オレの名前は古賀綾彦あんたは?」
「中森克樹です」
「ふーん。じゃあカツキ、身の振り方が決まるまでここにいればいいよ」
「――え?なんで…」
「何でだろうな?分かんねーけどほっとけないと言うか、あんたの事が気になるんだ」
「―――へ」
『あんたの事が気になる』という古賀の言葉に俺の心臓はとくんとくんと自己主張し始める。
違う。古賀はそういう意味で言ったんじゃない。
俺だって男が好きなわけじゃないんだからそういう意味で言われたとしても関係ない話のはずだ。
―――――だけど…。
俺の身体の奥の方がむずがゆく、そわそわと落ち着かなくなった。
それから俺はこの分からない感情を抱えたまま古賀のところでしばらくの間厄介になる事になった。
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