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明月:清く澄んだ月
空を見上げると暗闇の中にぼんやりと浮かぶまん丸の月。
俺は小さい子どもで、若い…高校生くらいか?少年の膝の上で泣いていた。
あぁ、れいの夢だと分かる。
「見上げてごらん。何が見える?」
「お月さま?」
少年は小さな俺の頭を撫でて細めた瞳は優しい。
「そうだね。キミのお父さんとお母さんはあそこに居て、キミの事を見守ってくれているよ。だから悲しむ必要はないんだよ」
「あんなとこにいるの?とおいよ…。僕、いい子にするからそばにいてほしい…。ぎゅってしてほしいよ…」
ぽろぽろと涙が零れる。
今思うと少年が言った言葉は両親を一気に亡くして泣く俺を慰めようとして言った誤魔化しだった。
たとえ大人であったとしても、死んでしまった人間に抱きしめられたいだなんて、そんな無茶どうする事もできやしない。
『月に死んだ両親が居て、見守ってくれている』
小さな俺は少年のそんな優しさに腹を立てた。
子どもの俺にも月に誰もいやしないと知っていた。
こんなに寂しくて悲しいのに嘘をつかれた事に無性に腹が立ったんだ。
駄々をこねて泣く俺を少年は黙って抱きしめてくれた。
両親とは違うけれど、少年の傍は温かくて安心できた。
少年の腕の中で泣き疲れてうとうとし始めた頃、誰かが来て……?
突然の激しい頭痛に夢の世界から現実に引き戻される。
「うぅ…っ痛いっ!こが…さ…っ」
記憶が過去と現在とが入り混じる。
胃の中の物がひっくり返ってげぼっと吐いてしまう。
優しい瞳。大きくて温かい手。
引き裂かれる服。押さえつけられる未熟な身体。
「うううう、うぁああああああああ!」
古賀さん……?
「はぁ…はぁ…はぁ……はぁ………」
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