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渇きし男の焦と滾
その0
その年最初の日…、ノボルは初夢を見た。
それは、過去の自分…、中学生の頃の実体験が睡眠中にフラッシュバックしたような夢だった。
言わば、実録マイストーリー…。
具体的には、腹違いの弟、武次郎と共に”家”を飛び出た、大打兄弟にとって、人生最大の転換事件と言えた”あの頃”が、新年の節目に眠りの中でなぞられていたのだ。
...
ノボルと武次郎…。
二人は2歳違いの異母兄弟だった。
父親はノボルたちが幼い頃から塀の中を行ったり来たりで、その父と6人の女との間に生まれた異母兄弟6人は、父親の親戚に預けられたのだが…。
ノボルが中学に進む頃には、二人は他の4人の異母兄弟とは実質、断絶していた。
その結果、上から2番目だったノボルは武次郎と共に、中学在学中に親戚の家を飛び出ることになる。
そしてなんと、この年で収入を得て自立したのだ。
彼らのお金を得る手段…。
それは信じられないことに、”金貸し業”だった…。
...
彼らが親戚の家を出る際、その身には二人合わせて25万円の所持金があった。
育ての親と言ってもいい父の義理の兄に、なんと年利10%で家を出る支度金がわりで用立てさせたのだ。
その説得手法は、極めてシンプルだった…。
”あなた方からしたら、所詮、自分たちは居候だ。しかし、食べ盛りの子供6人が4人になるのだから、毎日の出費が楽になる。その分を、くれとは言わないから貸してもらいたい”…と。
それは頼むというより、クロージングであったと言ってよかった。
中学生が50代の大の大人を、その足元も冷静に見据え、大胆な交渉術で落とす…。
一体、そこまでを成せる中学生二人を生んだモノとはなんだったのか…。
...
成人した後、二人はよくこんな会話を交わしていた。
「…まあ、十代半ばのお子様がよう、金貸しだもんな。もっとも、オレ達的には”立替え業”だったが…。その金利というアガリで4畳半ひと間を間借りして、いっぱしの社会人気取りだ。だが、オレたち二人は肩を寄せあいなんて湿っぽさは露ほどもなかった。堂々と稼いで、将来に向かっていた…」
「ハハハ…、そうだよ。まさに堂々と金融業だったわ。他の奴らじゃあ、思いもつかないし逆立ちしてもできないことを、オレ達は中学の時分からやってきたんだ。それが原点だし、今もこれからもそれがベースになる…」
「フン…、”あの体験”をベースにはしていく。でもよう、そのベースは金を立て替えて、金利の利ザヤをとるってスキームじゃあない。人と組む、人を使う、それ以前に人を掘り当てる…。こっちだぜ、肝心なのは」
ノボルの生き抜きの哲学は、まさにこのリトルブラック時代に培われた体験が原点となった…。
...
以来、大打兄弟は、濃たる執着という情熱を以って、冷静に冷淡に人を見切る眼を宿すことを習得してゆく。
その目線を日常のスタンスに透過させることで…。
”それ”に徹せたが故、この兄弟には大人でも捉えられないほどの”人の芯”をも見透かすことのできる、言わばX線機能を持ち得るに至ったのだろうか…。
かくて、この前年、”NGなきワル”に開眼したノボルは、その徹底した信条を以って己へ強い、さらなる黒い飛翔を遂げていく…。
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