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その1
砂垣順二…。
大打ノボルがその男の名を初めて耳したのは、その年のはじめだった。
”あれは、星流会の息がかっかった愚連隊連中へ、挨拶周りした際のことだったな…”
ノボルはその日のことは、まだ鮮明に覚えていた。
...
「…おお、アンタが横浜のリーダー格ってスマートガイかい。うーん、いい面構えだねえ…」
「いやあ、知人のたっての頼みで店舗を4つ任されてガード張ってますが、地元のみなさんには誤解を与えたくなかったんで…。ここを仕切る諸星さんを、ヨコハマの権野組長との関係で繋いでもらいまして…。直の挨拶が遅れて恐縮です。自分もしばらくこの地に滞在しますんで…。まあひとつ、利害害関係なしでよろしく願いたい」
「うむ…。諸星会長からは良しなにってことで言われてるし、アンタの仲間のええと、御手洗さんか…、その人からは最初に挨拶はもらってるしね。まあ、うまくやっていこうや。それで、もう砂垣氏とは会ったかい?」
「砂垣…?いえ、まだその方とは…。愚連隊の関係ですかね、その人」
「いや…、てっきり諸星会長から耳にしてると思ったんで。そう言うことなら今の話は忘れて欲しい。…まあ、いずれ近いうち面識を持つことになるとは思うが…」
「…」
この時はさほど気には留めなかったが、ノボルにはなんとなく、この男の言わんとすることがニュアンスとして伝わっていた。
...
「じゃあ、諸星会長のパートナーは砂垣順二ってことですか…」
「そうだ。奴には黒原が生前の頃から目をつけていたらしいわ。まあ、いいコンビだな(苦笑)。砂垣は黒原の直系で、墨東会のトップどころにはなるが日和見というか、ガキ仲間からは風見鶏と見なされてる尻軽だ」
”日和見&風見鶏&尻軽って…。完全、褒めてねえじゃん、折本さん…。それを、傘下の在○の諸星会長といいコンビって…”
ノボルは表情には表さなかったが、奇妙な違和感をまずは否定できなかった。
「…諸星は砂垣のよう、まあ人の間を器用にすり抜ける曲者どころを買っていて…。ヤツの方も仲間数人を連れて、諸星との裏タッグに同意した。以後、諸星ー砂垣ラインは、我々関東直系の熱い視線を浴びることとなる訳だ…」
東龍会幹部である折本の口から出たこの言葉…、”関東直系の熱い視線”も、この時のノボルには強いインパクトをもたらした。
”何はともあれ、日本を二分するこの業界の大手、関東一家から熱い視線をオレら同年代、同線上の男がオレのいわば先遣になると言うのか…。なんだか、しゃきっとしない…”
この時のノボルは、あらゆる今の現状をひっくるめて、どこかもやっとした気分を消すことが出来なかった。
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