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「おまえ・・・女だろ?」
佳は少し苛ついているような、どこか疑わしそうな目で瑞希を見た。
強引に彼を壁へと押し当てたあとに近づけた顔は、女性だというのに覇気が感じられて、瑞希はただならない違和感を感じた。のどに声がつっかえたまま出なくて、彼は彼女の首あたりをただただ見つめることしかできなかった。
「どっちなんだよ」
忍耐強くない彼女は彼の顎に右手を添えてグイっと上げる。強引に目線を合わせた。
はっと瑞希は息をのんだ。
「・・・ぼ、ぼくは」
掠れた声が消えていき、やがて嗚咽に変わっていった。何かが喉を詰まらせているようで、瑞希は我慢できずそのまましゃくりをあげながら泣く。
舌を打って佳は面倒くさそうに顔を横に一瞬向け、また彼を見た。
「あのなぁ・・・偏見とか常識とかそういうに怖気づいているようじゃあとてもじゃないけどこの世界では楽しくやっていけないんだよ。電車の中で騒ぎ立ててみんなにスマホで撮られているようなやつが案外一番思い通りに過ごせているんだって」
そんなことはわかっている。瑞希は心の中でそうつぶやいた。しかし、そんな理論など、常識という名の見えない力が蔓延るこの世界では、いくら正しく聞こえようがそんなのどうにもならない。
男性が語尾に「わ」をつければ不審がられる。男性がワンピースでも履けば笑われる。男性が口紅を赤く染めようとしたら気持ち悪がられる。
それがすべてであって、それ以外のものは大衆に排除されてしまう。
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