第1話 勧告

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「そうかぁー、出勤調整入っちゃったか」  マリエさんは自分のために顔をしかめて同情してくれた。あるいは自分たちの店が、そこまで追い詰められていることに、先の不安を感じているのかもしれない。  マリエさんは、今年二八才に成った。短大に通っているときから、今のお店『クィーン』で働き始め、卒業後もアルバイトをしながら、いつの間にか本業になってしまった八年目のベテランキャストだ。  最近は若い子のように、飛びぬけた売り上げを上げることはないが、それでも安定した常連さんに支えられて、店でも貴重な存在だ。  どこを気に入られたのか分からないが、私のことは何かと気にかけてくれて、今日のように出勤前のご飯に誘ってくれたりする。 「まあ、私のように中途半端な存在は、こういうときに弱いですよね。出勤調整が掛かるのも、仕方ないと思います」  そう言いながら、自分が情けなかった。実は昼の世界でも居場所が無くなりつつありますとは、最後の意地が顔を出して言えなかったが、昼でも夜でも必要とされない気がして、我ながら困ったものだと自嘲する。
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