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《同日午後七時すぎ。ディアナ東区路上。ユーベル》
タクシー乗り場に、銀の卵みたいなカプセルは一台も止まっていなかった。
背後からの気配はさっきよりも近づいている。
どんな相手なのかエンパシーでさぐろうとするのに、読みとることができない。両耳のピアスを外しても同様だ。
たぶん、相手も制御ピアスをつけているのだ。
それもトリプルAのユーベルのエンパシーをほぼ完全に遮断していることを考えれば、少なくとも三対のピアスを。ことによると、四対。
そんなことを日常的にしている人間がいるとは思えない。どう考えても異常だ。
あるいは相手が、ユーベルのほんとの能力を知っているとでもいうのか……。
(ぼくを狙ってる……?)
急に背筋が凍りつくような恐怖を感じた。
ユーベルはそれを抑えつけ、払拭しようと努力した。
(そんなことあるわけない。だって、リラ荘を出たとき、ちゃんと確認したんだ。変な気配がつけてきてないってこと。おれが今日、ここに来ることは誰にもわからなかったはず。リリーをつれてってやろうと思ったの、うちを出る直前だった。バタフライがさきまわりすることなんてできなかった。ただの気のせい。そう。気のせいだ)
ほんとにそうだろうか?
ほんとにバタフライは、ユーベルが今日この時間に、この場所へ来ることを予測できなかっただろうか?
ゆっくりと、ユーベルはあたりを見まわした。
星のまたたき始めた空。見おろしている地球。薄暗い街路。ひとけのない街角で、姿の見えない何者かに追いまわされる……この感じ、前にもあった。
デジャヴュ——
(夢で見たよ。そうだ。おれ、夢で見た)
このときだったんだ。
いつも、あの予知夢を見たとき、最後には必ず、誰かに追われて炎に包まれた。
ほかのことは、みんなこれまでホントになって……それで、ついに、これが現実になるときが来た。
(意味ないじゃない。いつ、そのときが来るのか、前もってわかってなきゃ)
とつぜん、ユーベルは、自分がほんとは眠っていて、夢を見ているような非現実な陶酔感に落ちていった。
これは、ユメ。目がサメタラ、タクミが笑ってくれるから。ナニもコワクなんて、ないよ……。
暗がりから、その人が現れた。
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