《ダニエルの聴取記録》

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《ダニエルの聴取記録》

 ダニエル:違う。おれは何もしてない。ほんとなんだ。  刑事:じゃあ、なぜ、おまえの部屋のパソコンから、ゲームセンターの対戦台につながってたんだ? 調べはついてるんだぞ。おまえがオンラインゲームをしてる時間、その台を使ってたのは、いつも、ブルーノ、イリヤの二人なんだ。二人にカードをだましとられた連中が教えてくれたよ。何月何日の何時に、やつらと対戦したのか。その全部で、おまえのパソコンがフル稼働さ。  ダニエル:そんなの……ウソだ。  刑事:ウソじゃない。ほら、これがホストコンピューターの記録だ。おまえのうちのネットIDだろ?  ダニエル:…………。  刑事:おまえがやったんだろう? ブルーノが持ってたなかに、とくに貴重なカードがあってな。製造会社に問いあわせたら、マーティン・ブルックナーってCGクリエイターのインディーズカードなんだそうだ。マーティン・ブルックナー。知ってるだろ? おまえさんの大好きなブルックナーだよ。  ブルックナーは最近じゃ、アトキンス鉱山王の出資でホログラフィー映画を手がけるなど、めざましい活躍をしてる一流アーティストだそうだな。新人のころは不遇で、インディーズ時代が長かったらしいが。自分で製作したインディーズカードをネットで販売するなどして生活費を稼いでた。そのころのカードが今じゃ一枚、高いものじゃ五万ムーンドルするっていうんだから驚きだ。  とくにマニアのあいだで人気を集めてるのが、彼が最初に作成したインディーズカードで、親しい友人にだけ配った、ほんとの限定品。アムールなんだそうだな。ほかのカードは何度も同じカードを再販したが、それだけは一度も重刷しなかった。  五十枚限定製作のうち、現存してるのは、ブルックナーが所持するカードを含む三十数枚。その半分はブルックナーの所有だ。市場に出まわってるのは十数枚のみ。そのためマニアには幻のアムールと呼ばれている。オークションでは過去、彼のカードのなかで最高額の六万八千ムーンドルがついたこともあった。  ブルックナーマニアのあんたしちゃ、喉から手が出るほど欲しいよな? 六万八千と言えば大金だ。あんたの年収の倍にはなるだろ?  ダニエル:…………。  刑事:しかし、何千何万とカードをコレクションしてるあんたが、崇拝してるアーティストのレアカードを持ってないなんて変じゃないか。ところが、ブルーノは持ってたんだ。ブルーノみたいな定職もないチンピラが、なんでそんな、ごたいそうなもん持ってたのかね? もとはと言えば、あんたのカードだったんじゃないのか? あんた、虎の子のカードをまきあげられて、とりかえすために殺しちまったんだろ?  ダニエル:違う! ほんとにやってないんだ。おれはただ……そうだよ。うっかり賭けゲームに誘われて……バカだったんだ。勝てばアムールの対になるプシュケーをやるって言われて。おれはアムールを買うので精一杯で、とてもプシュケーまでは……だから、だまされたんだ。大事なアムールをとられて、返してほしければ手を貸せっておどされた。でも、それだけなんだ。おれはやっちゃいない! ほんとに、ほんとにやってないんだ。アムールだって、まだとりもどしてないのに。刑事さん。犯人を捕まえてくれ! それで、おれのアムールをとりもどしてくれ!
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