《10月。ムーンサファリ。タクミ》

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《10月。ムーンサファリ。タクミ》

 十月。  ハロウィンの季節になって、タクミたちはムーンサファリへ帰ってきた。夏ほどではないが、ハロウィンフェスタも楽しい仮装の大会だ。オバケのカッコをして、園内をパレードする。アニメファンのなかにも好きなキャラクターに扮して参加する人が多い。 「わたしたちがチームを組むのも、これがラスト。今日こそは優勝を狙いましょう」  女の子たちの意気込みは強い。この大会を最後に解散するのだ。  シェリルは田舎へ帰る。タクミと結婚して同居してると、シェリルは両親にウソをついてたらしい。証拠写真を玄関前で偽造したりなどして。でも、実家へ帰って、心機一転やりなおすという。  ミシェルとジャンは結婚して、コスプレはやめる。あばれグマからモデルの命の顔に傷をつけてまで、ミシェルを守ったジャンの誠意がむくわれたのだ。もちろん、クローン皮膚移植で傷は完治しているが。  エミリーもダグレスと婚約中。コスプレは続けて、ノーマと二人で新メンバーを募る予定だ。笑顔が生き生きして、エミリーはキレイになった。  ミシェルたちはあいかわらず、言いあっている。 「ジャン。今から、わたしたちライバルよ。手かげんしないから」 「そっちこそ、最後だからって、おれたちが花を持たせてやると思うな」  しかし、そういうようすも、なんとなくお熱い。  かたわらでエミリーとダグレスもイチャイチャしてるし、独り者は居場所がない感じ。  タクミは嘆息して、 「じゃあ、僕、カード大会に出場申請してくるから、さきに行ってて。あとで追いかけるからさ」  仲間から離れてカード大会場へむかった。  カードといえば、アンドレはマーティンの影響でカードマニアになった。マーティンがメジャーで製作したアムールのホログラフィーを見て、感動したらしい。  タクミも見せてもらったが、たしかに美しかった。インディーズ時代のアムールは暗くて悲しいイメージだったけど、のちに作りなおした映像には、つきぬけた幸福感があった。生前のマヌエラの愛すべき性質が魅力的に表現されている。  おかげで近ごろ、アンドレはよくタクミの部屋に遊びに来る。同じく、マーティンやダニエルがやってきて、カードの話やCGグラフィックの話で盛りあがっている。  ちなみにダニエルは罰金と一年間のホログラフィックス公式大会への出場停止だけですんだ。大事なアムールが返ってきたので、泣いて喜んでいた。  だが、返ってはこないものもある。  今でも一人の部屋は広く感じるし、夕暮れの空を見るのがツライこともある。  そういえば、リリーがしょっちゅう飼い主につれられて遊びに来るけど、ユーベルがいないので、さみしそうだ。  タクミもさみしい。帰ってきてほしい。友達だから。ほんとの弟みたいに思ってたから。  甘えん坊で、さみしがりやで、無謀なくらい一途だった君……。 (あれ? なんかこうして考えると、ユーベルの性格って、僕の理想の女の子に近い……?)  そんな考えが浮かんだせいか、ぼうっとしてしまう。  立ちつくしていると、前からものすごく可愛い女の子が歩いてきた。長いプラチナブロンドの巻毛。純白の肌。大きな瞳が愛くるしい美少女。ミニスカートから、すらりと伸びた長い足がまぶしい。 (わあッー。超絶美少女! ゴッデスだよ、もう。女神さま)  すると、お人形のような美少女がいきなりかけよってきて、タクミの首に抱きついた。 「会いたかった! タクミ」 「えッ? ちょっと、君、誰? ていうか、マリエール? いや、マリエールより幼いし可愛い……ユーベルに似てるっていうか、ユーベルなわけないし——ていうか、そんなにひっつかれると理性に自信が……ていうか、さっきから僕、何回『ていうか』って言った?」  くすくす笑いながら、美少女はタクミの口にキスしてきた。 「ぎゃあッ、事故で奪われるの四回め。でも、嬉しい——って、僕はロリコンか?」 「あいかわらずだね。タクミ。ちょっと予定より人工子宮から出るの早すぎて、まだ十三歳半の体なんだけど、東洋人から見たら、十六くらいに見えるだろ? ほんとはもう少しガマンして、十五にはしときたかったんだけどさ。一回、意識が覚醒しちゃうと、培養液のなかってけっこう苦しいんだよ。せまいし、退屈だし、空腹感とか」  タクミはまじまじと少女を見つめた。このしゃべりかた、なんだか……。 「やだな。ほんとにユーベルに似てるよ。まさか、ユーベル——なんてことはないよね?」  笑いながそうとしたら、美少女はうなずいた。 「うん。おれ、ユーベルだよ。襲われて失神して、気がついたら火の海だったから、エンパシーでクローン再生体に記憶、写した。ぼくってトリプルAだから」 「え? ユーベル? クローン再生って……え? え?」 「タクミに言ったら反対すると思ったから……ごめん。ほんとは前から、クローン再生してた。女の体で」 「ええッ?」  という驚きは、今となっては、とびきり嬉しいサプライズ。 「ほんとにユーベル? 生きてたんだね?」 「うん。体は別物だけどね」 「もういいよ。男でも女でも。生きてさえいてくれれば」  抱きしめると、あたたかなぬくもりを感じる。  タクミは周囲の注目をあびるのもかまわず、長いあいだ、ユーベルと抱きあっていた。  晴れた空に花火があがる。  今ここに二人が生きていることを、祝福するかのように華々しく。 「さあ、行こう。みんなが待ってるよ」 「うん」  手ととりあって走る。  どこかでこっそりと、アムールが微笑んだ。  そんな気がする。  了
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