プロローグ

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プロローグ

 その日、私は初めて彼に会った。  彼はとてもキレイな青年で、そぼふる霧雨にぬれる町の灰色の景色のなか、かなり目をひいた。一度見たら忘れられないタイプの容貌だ。  だが、それだけなら私は彼のことなど気にかけなかった。  ところが、翌日、ふたたび同じ景色のなかで彼を見た。  そのぐうぜんが三度めに起きたとき、私は胸のざわめきを隠せなくなった。  なぜ、こうも度々、彼のことを見るのだろう。  私と彼のあいだには切っても切り離せない深い縁があるのではないだろうか?  さらにぐうぜんが重なるうちに、私は運命を感じた。 「ママ、またあの人の夢を見た。これでもう十回め」 「あら、いいじゃない。ステキな人なんでしょ? どんな人か教えてよ」 「ナイショ」  私にはわかっていた。  いつか私と彼は結ばれるのだ。だから、くりかえし彼に会うのだ。 「もう時間よ。学校へ行きなさい」 「うん」  せかされて、私はモゴモゴと頬ばっていたトーストをホットミルクで流しこんだ。  学校はあまり好きではないが、しかたない。知識を得るのは好きだ。しかし学校のなかでの私は、はなはだ浮いている。自分ではそうとまで思わないのだが、クラスメイトたちの目にはひじょうに異彩を放っているらしい。  変人と言われて臆するほど弱い心は持ちあわせていないので、それはかまわない。  とは言え、私自身、この不可思議な力には困惑する。他人にはないこんな力を持って生まれたことが、必ずしもいい結果につながるとはかぎるまい。いつか、とんでもないしっぺ返しに見舞われるのではないかという危惧が、音もなく心の奥底に降りつもっていく。それが怖い。 (でも、大丈夫。これは私に指標をあたえてくれる。使いかたさえあやまらなければ)  そうだ。今夜もまた、あの人に会えるのだからと、私は自分を励ました。  あの人に会えば、イヤなことはみんな忘れる。  あの人に会えるのも、この力のおかげなのだから。
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