01. 6月の午後

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僕はこの後、志帆の機嫌を取りながら ハンバーガーのセットメニューを 奢る羽目になった。 「どう?美味しい?」 「うん…まぁそりゃ、ね」 帰り道も雨・・・ 僕たちは二人並んで自転車を漕いでいる。 外はすっかり暗闇に包まれ ぽつりぽつりと灯り始めた寂しげな街灯は 雨に濡れる志帆の横顔を鮮明に照らし出す。 「あぁ食べた食べた」 笑顔を取り戻した志帆を見て 僕は恐る恐る切り出した。 「ご機嫌は直ったかな?、志帆ちゃん」 「うぅん、まだ…だけど」 「お腹いっばいにならないから?」 「そんな訳ないでしょ!こんな時間になっちゃったから(うち)まで送ってってよ」 「はぁ、こりゃ今日は災難だな」 「え?何か言った?」 「いえ、何にも」 正直、これまで志帆と話をするネタなど ひとつもなかった。 "真面目な勤勉少女" 僕は志帆に対してそんなイメージしか なかったのだから。 ただガリ勉ぽい不似合いな黒縁の眼鏡から コンタクトに変えた時は 少なからずときめきを覚えたが それもほんの一時的なものだった。 なので沈黙は当然の(ことわり)なのだが その沈黙を破ったのは志帆の方からだった。 「ねえ、原田くんてさ」 「何?」 「何でカッパの帽子、被んないの?」 「髪がぺったんこになるから、だよ」 「だぁってー、どうせ濡れたらしわしわでしょ?」 「ま、そうだけどね」 「バッカじゃないの?…ふふふ」 「何でだよ!俺の勝手だろ」 すると志帆はまじまじと僕の顔を見ながら 「あはは!怒ってる…何か、お風呂上がりみたいだよ」 そう言って 雨に濡れた僕の前髪をさっと掻き上げた。
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