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望は齢を重ねた新一の姿を見、その言葉を聞いて、未来に何があったのか、瞬時に悟った。とたん、感無量の思いそのままに、ぶわりと涙が溢れてくる。
「新一……ちゃんと生きていたんだ。それに君が時間を超えるなんて……」
「まあな。タイムマシンの開発には相当、金と時間がかかっちまったけどな……いてて」
新一は痛みを堪えて身を起こす。
「でっ、でも……僕、新一に手紙、送っちゃったよ。僕が生きていたら、あの手紙はただの冗談にしか思われないよ……」
「ああ、そりゃあ困ったな。そうなると現在の俺は存在しないことになっちまう。まさにパラドックスだな」
新一は逡巡してから、ぱっと表情を明るくした。
「そうだ、じゃあ証拠を残そう」
「証拠?」
「望、スマホ持っているか?」
「うん、これ……」
望は身元が分かるように、最低限の持ち物をジャンパーの内ポケットに忍ばせておいたのだ。
新一は望からスマホを受け取り、カメラを起動させた。そして、望の背後に回ると望を左手で抱き寄せ、右腕を伸ばしてカメラを構える。
「この写真で説得してくれ、昔の俺をさ」
そう耳元で呟いてから、ぱしゃり。自撮りをした。望はすぐさま振り返る。
「うん、僕、頑張――」
するとそこに新一の姿はなかった。
スマホが芝生の上に、音もなく落ちる。
宵闇に浮かぶ木々が冷たい風に揺らされて、乾いた歌を奏でていた。
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