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――一体、どういうことなんだ。
新一は理解が追いつかず困惑する。なぜなら、望に未来を予知する能力があるとは思えなかったからだ。望は本命の大学に受からなかったし、自転車で転んで骨を折ったこともある。予知能力があればそんなことにはならないはずだ。
ただ、望が新一の未来に不安を抱いていたことは知っていた。工場の隅に目をやり、かつてそこにいた望の姿を思いだす。
望は工場の隅で小学生のような体育座りをし、新一が作業をする姿を楽しそうに眺めている。
「望、お前、大学は大丈夫なのかよ」
「うん、単位は取れたから。それに、授業よりも新一が頑張っているの見る方が楽しいんだもん」
「開発には期限があるからな、とにかくまずは空を飛ばさねえとすべてがパアだ」
「でも新一なら、きっと飛べるの作れるよ」
当初は新一の夢を応援している雰囲気だった。けれど、ある日を境にして懐疑的な態度になった。
「ねえ、そろそろ空飛ぶ自動車、あきらめた方がいいんじゃない?」
「今さらなに言いだすんだよ」
「新一、よく考えてみなよ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では30年後、つまり2015年には車が空を飛ぶって予想していたんだよ。だけど、いまだに全然、空飛んでないじゃん。このぶんだと新一がどんなに頑張ったって無理だと思うんだよなぁ」
決めてかかる言い方に新一はかちんときて声を荒げる。
「望、お前、俺を馬鹿にしてるのか? これは俺の仕事である前に、俺の夢なんだ」
「でも、絶対うまくいかないって」
「いい加減にしろよ。人の夢を否定するなんて何様のつもりだよ!」
新一は怒りをあらわにし、握っているドライバーを望に向かって投げた。脅しのつもりだったが、手元が狂って望に向かって飛んだ。それは望のひたいを直撃し鈍い音が響いた。
「痛い……ッ!」
「す、すまん、マジで当てるつもりはなかったんだ」
押さえた指の隙間から血が滴る。
新一はすぐさま謝ったが、望の顔はみるみる崩れ、子供のように泣き始めた。収集がつかなくなり、おろおろする新一に向かって、望は一言、こういった。
「だって、僕は君が大切だから、君の夢を奪うんだ……」
それが新一が聞いた、望の最後の言葉だった。
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