新一と望

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★ 新一はその後も空飛ぶ自動車の開発を進めていた。手紙の内容を信じるには根拠がなさすぎたからだ。 それから開発の手応えがつかめ、企業が提示した期限に間に合う可能性が出てきた頃のことだった。 ふと、工場の入り口から視線を感じた。工場の中は薄暗いが、入り口周辺は日が差して明るい。その陽だまりの逆光に佇む人の姿があった。新一は気づかないふりをして溶接を続けていたが、人影は確かに新一の姿を捉えている。 この無言で時間が流れる感覚を、新一はよく知っている。人影は望に違いなかった。本当は死んでなんかいないんじゃないかと、そんな不思議な感覚さえ抱かされた。 新一は自身を落ち着かせながら作業を続け、時折人影に目を向ける。 何度か見ていると、人影がふっと視界から消えた。視線を切らせた時ではなく、見ている間に忽然と消えたのだ。新一は喫驚した。 幽霊だったのか? いや、そんなはずはない。長く伸びた影、生々しい視線、これらは紛れもなく人間そのものだ。 新一はその不可解な現象を見て、これは望から俺へのメッセージではないのかと考えた。 ――もし、あの手紙に書かれていたことが、真実だとしたら。 とたん、背中が凍りつくような感覚に襲われる。そして、どうしても望の手紙が脳裏から離れなくなり、自身の中で否定できなくなっていた。
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