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新一は迷いに迷ったが、ついに決心し開発の舵を切ることにした。
空飛ぶ自動車の開発をしているように見せつつ、小型化した飛翔機の開発に乗り換えることにしたのだ。
人を空に浮かせるためには、自動車のような大きな機体は邪魔でしかなかった。それに、小型の機体であれば万一事故を起こしても、大きな被害を生むことはないと考えた。
新一は積み上げた技術を応用し、カーボンのウイングと小型のロケットエンジンを搭載した、着脱式のセルユニットを開発した。ランドセルのような形態で、耐熱スーツの上に装着して頑強に固定する仕様だ。新一はそれを「ランディング・セル」と名づけた。
ウイングモードをオンにすると翼が広がり、その状態でロケットエンジンを点火させると一気に空に舞い上がる。最初は不安定だった飛翔時のバランスも整えられ、納得の出来となった頃、開発のタイムリミットを迎えた。
「それでは開発の進捗状況を見せてもらおう。これが最後になるかもしれないがな」
上層部からの要求に対して、新一は謙遜し、これしか作れませんでしたといって「ランディング・セル」を提示した。そして、目の前で鮮やかな滑空を披露してみせたのだ。
大空を自由に羽ばたく新一の姿は、企業の重役たちの度肝を抜いた。
「プレスリリースの準備を整えろ!」
「いや、この技術は盗まれるとまずい。至急、特許を取得しなければ!」
「君を新しいプロジェクトのリーダーに指名したい!」
そして、新一の開発した「ランディング・セル」は世界中から賞賛を浴びることになり、新一は新たな開発部のリーダーに抜擢された。
――望、自動車免許と並んで飛翔機免許ってものもできたんだぞ。常識なんて十年すれば変わるもんだな。もしもお前に予知能力があったとしても、塗り替えられた未来を予知することは無理だったろうな。
望の墓前にそう報告できたのは、新一が三十歳のときのことだった。
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