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新一は飛翔機交通時代の先駆者と呼ばれ、新たな飛翔機開発の期待が寄せられた。
その結果、新一がリーダーを務める開発部には多額の研究費が投入され、新一は自身の裁量でその開発費を使用することができた。まさに人生の成功者となった。
けれども、最善の結果に新一は釈然としなかった。
――望はなぜ俺が大事故を起こすと思ったのか。
――未来にそれが起こり得ると、自殺をして止めるほどの確証があったのか。
――工場に現れた望は一体、何を意味していたのか。
それらの疑問が頭の中を巡り続ける。だから望がいなくなって十年以上経っていたが、もう一度、望の手紙を見返してみることにした。
そして、新一は発見した。
当時は気づかなかったが、ほんのひとかけら、望の持つ奇跡のような能力に言及した箇所があったのだ。
『僕が意識を飛ばしてみた場面』
――そうだ、望は予知ではなく、時間を跳躍していたんだ。だとすれば、実際に見たことについては予知よりもきわめて信憑性が高い。しかも時間跳躍であれば、不特定の時間に起きる未来を予測することは難しい。受験に失敗し、転倒し骨折するのを予見できないのも頷ける。そして工場に現れた望は、俺の未来を見に来た過去の望に違いない。それならば、大事故を目撃したというのも納得できる。
新一の心は激しく震えだす。
――もしかしたら、時間跳躍は可能なのではないか。望はそういう能力を備えていたが、不可能でないなら科学で再現することができるかもしれない。
そう考え、新一は新規開発プロジェクト『時間跳躍』の実現に乗り出した。
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