新一と望

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新一は金庫の鍵を開け、タイムリープべルトを取り出す。ベルトの部分は特殊な金属繊維が編み込まれており、バックルの部分は厚みがある。ずっしりと重い。 タイマーを決めておいた時間にセットする。あらかじめまで正確に計算しておいた。 それから愛用の耐熱スーツを纏い、ランディング・セルを装着する。ウイングモードにすると瞬間的に翼が広がる。よし、調子は良好だ、燃料も十分ある。 そして、スーツの上からタイムマシンを取り付け、すべての準備を整えた。 新一は開発室を後にし、屋上から空に飛び立った。もう二度と、この会社に足を踏み入れることはないのだろうと思いながら。 そして、目的地であるビルの屋上に着陸する。思い起こせば20年前、望はこの場所から身を投げた。正確な時間は不明だったが、新一には見当がついている。 このビルはかつて新一が望と二人で忍び込んだことのある場所だった。 二人にはこの場所で交わした約束がある。満月が空の頂に達したときのことだ。 「新一、お願いがあるんだ。聞いてくれるかな」 「ああ? なんだよ改まって」 「あのさ、もし僕が、友達でいてほしいんだ」 「ぷはっ、あたりめえじゃん。お前がちょっとやそっと変な奴でも、ずっと友達やってやらぁ」 「よかった、やっぱり新一は新一だね」 月夜に照らされた望はやけに嬉しそうな顔をしていた。それが時間跳躍の能力のことだなんて、その時は思いもしなかったが。 そして、その能力が絶望の未来を知る理由だったのだ。さらに、望は命を懸けて新一をその絶望の未来から救ったのだ。 ――待っていろよ、望。今度は俺がお前を助ける番だ。 新一はタイムマシンを起動させた。淡いライムイエローの光が全身を包み、麻酔をかけられたように感覚がおぼろになっていく。目に映る街の景色が細かく切り分けられ、星屑のように瞬きながら散った。無に近い、暗黒の世界が形成され、意識を吸い込んでゆく。これが時間跳躍の感覚なのか。 『20○○年○月○日午後11時時57分に跳躍します』 ――どうか、望にたどり着いてくれ。
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