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「明後日の会議までに資料を集めてくれ――っ」
開いた扉が閉じた。最初侍従と側近を連れて入ってきたジェイク様は、全員で一度外に出てから一人で入ってきた。
「酷い匂いだ――。リヨンどうしたんだ? 具合が悪いのか? ここのところ姿を見ないから心配してたんだ。休暇と聞いたんだが……」
ソファのクッションに半ば崩れるようにして待っていた僕の茶色の髪をジェイク様は心配そうに撫でた。青い瞳が心配そうに見えた。使用人がソファに座っているなんて他の屋敷だったら怒鳴られるだけじゃすまないだろうに。
「発情したんです。ジェイク様、僕に子種をくれませんか?」
見ひらかれたジェイク様の目に驚きが拡がった。
「リヨン、意味がわかっているのか?」
いつまで立ってもジェイク様の中の僕は来た頃のさみしがりで泣き虫の子供でしかないのだろう。僕はもう子供だって産める大人になったのに。
「わかっています」
「このガードはどうした? こんなものはめていなかっただろう?」
「番にして欲しいなんて大それたことを望んではないのです」
ジェイク様の手をとって、僕は頬にあてた。それだけで身体の奥からジュンッと熱いものが溢れてくる。
「番ではなく、子供が欲しいだけ……?」
「そうです。ジェイク様も一度くらいオメガの身体を愉しんでください。とてもいいんですって――」
本に書いていた。オメガの身体はアルファにとって最高のご馳走なのだと。理性が効くのは多分今のうちだけで、そのうちジェイク様も発情にあてられてしまうだろう。
「オメガの身体を試したのか――? リヨン、俺は知らなかったぞ。子種だと――」
「グッ! あ……」
ガードを引き千切るように手に力を込められて、僕は喉を詰まらせた。
「こんなものをつけて、娼婦のようだ――」
ガリッとガードの下を噛まれた。痛いはずなのに、何故か陶酔が湧き上がる。
「あっ、ジェイク様――……」
「オメガの発情は、アルファを狂わす。それを知っていてここにいるのなら、お前が望んでいることだろう?」
「ジェイク様も一緒に……」
「残念だったな。俺はフェロモンに耐性があるんだ。だからこその王の剣なのだ――。王の剣や盾と呼ばれる血筋はオメガに狂ったりしない」
「え、でも旦那様は――」
ハッと口を塞いだけれど遅かった。
「父上が――、お前を」
ガードは鍵がかかっていてとれないのに、ジェイク様はそれに爪を立てた。指から血が出るのが見えた。爪が剥がれたのかもしれない。その手を剥がして具合を見ようと必死に力をいれたけれど、騎士であるジェイク様の力には及ばない。
「ガードは父上がはめたのか――。俺の……」
「ジェイク様、指……」
息が苦しいけれど、ジェイク様のほうが心配だった。いつも優しい鷹揚な彼にはない苛烈な一面を初めて見た。
「父上など、もう父とは呼ばない! お前に手を出してあまつさえ俺に寄越すなどフログラードの名に泥を塗った!」
僕に手を出す? 意味がわからない。でも、それを言葉にする前にジェイク様の口が僕の口を塞いだ。ガードの上から喉を掴み、顔を背けることも許さないジェイク様の口付けは、噛みつくように激しい。実際歯が唇にあたって血が出たというのに甘く感じる。
ぼんやりしてくるのが、発情のせいなのか息ができないからなのかわからない。
荒々しく僕の服を破り、放り投げた服の上に僕を押し倒したジェイク様は、発情に煽られているようにも見えた。フェロモンに抗えると言ったはずなのに、早急に開けたズボンの中は隆々と勃ち上がっている。
ゴクリと喉が鳴った。
「オメガには美味そうに見えるのか?」
クッと笑ったジェイク様は、それを僕の後孔に充てた。
まさか――そのまま挿れるつもりなのだろうか、と強張る身体を半分に折り曲げられた。天を向いた尻の穴からは多分愛液と呼ばれる分泌物が溢れているはずだ。だからと言って直ぐに挿れられるものなのだろうか? 僕の読んだロマンス本にはそんな展開はなかった。
「ヒィ―ァ――……ッ!」
悲鳴は声にならなかった。空気に溶けて、喉を震わせることしかできなかった。
「きつっ! 慣れたオメガとはいえ、解しもせず挿れればこんなものか」
「カッハッ!」
器官に入った唾に噎せた僕を一瞬心配そうに見つめたジェイク様だったけれど、次の瞬間何かを振り切るように腰を動かし始めた。
グチャ、グチュと聞いたこともないような音が僕のお尻の方から聞こえてきた。
突き入れられたソレは、加減することもなく僕の中を暴いていくというのに、沸いてくる感情は、恐れでも痛みでもなく歓喜だった。
「気持ちい……あっ、ああっ!」
「リヨン! リヨン!」
「ジェイク様――っ」
こんな気持ちのいいことは初めてだった。身体は床に押しつけられたままで、挿っていなくても辛い体勢だというのに、全く気にならない。最初は動きも悪くて力任せに抽送をくりかしていたジェイク様は、しばらくすると気持ち良さそうな声を漏らすようになった。
「ハッ、ア……リヨンッ、中が蠢いている――。気持ちいいのか?」
膝裏をもたれて揺れるだけだった僕の脚もビクッと震えながらジェイク様の腰に巻き付いた。
「気持ちいい……です」
苦しい体勢だというのに、ジェイク様のキスが欲しくて手を伸ばすと、その手を首にまわすように促されてキスを与えられた。オメガがフェロモンで身体を柔らかくするという特性がなければ、僕の腰は真っ二つに割れていたと思う。それでも動くのに不自由だったのかジェイク様は、僕から一度抜いてうつ伏せにして挿れてきた。少しの抵抗もなく受け入れる僕の中は、既に蕩けてジェイク様に絡みつく。
苛立ったように「くそっ!」と呟いた声で、まるで激しく愛しあう恋人のように感じていた僕も現実を思い出した。でも発情のせいか思考は僅かだった。突き入れられ、抜かれるタイミングで中を締め付けるというような理性ではなく本能が大部分を占めていたからだ。
四つ這いは、あまり嬉しくなかった。
「いや、顔見たい……ッ」
「クッ! お前は――」
抱き起こされる時に胸に手があたり、それだけで僕の身体はビクビクと痙攣を起こす。ジェイク様に背中を向けているのが嫌で、顔を必死に向けるとキスをしてくれた。その間も繋がったままで下から突き上げられて、僕は唾液と涙でベタベタのみっともない顔で見上げていた。
「やっ、ああっ!」
胸の先端を引っ張られながら奥に強く押し込まれると中が長い間隔で収縮して、ジェイク様が達った。中に刺激を受けて僕も精液を零す。ガクガクと目で見てわかるくらい震えながら前に倒れそうになるのをジェイク様が腰を掴んで支えてくれた。
「リヨン、子種だ――。……満足か?」
さっきまで怒り狂っていたジェイク様の顔が歪んでいる。まるで泣きそうに見えた。
「いやっ、抜かないで――。ジェイク様はもう二度と抱いてくれないのでしょう? お願い……です。これから先、欲しいなんて言わないから――」
ポロポロと涙が零れた。発情した身体を持てあまして、感情の制御ができなくなっていた。
「涙……、懐かしいな。お前はよく泣いていたのに――」
チュッと後頭部にキスをしてくれたジェイク様は、あやすように抱きしめてくれた。
「こんなところで抱いてしまって、あちこち赤くなっている――」
背中や膝、手の平、指と床で擦れて赤くなった場所に癒やすようにキスをする。
「ジェイク様?」
「父上からお前を奪い返す――」
覚悟の籠もった声、それと同時に僕の中にあった彼の分身が兆した。
「それはどういう……」
「お前は俺のものだという意味だ――」
お腹の中がときめいた。確かに今まで発情していたはずなのに、それを超える熱量が僕の中を駆け巡った。
「ああっ! あ……ジェイク様……。好きです」
言ってしまった。僕の秘密を。一生内緒にして生きていこうと思っていたのに。
「リヨン!」
勝手に動き出してしまう腰の揺れに、ジェイク様は少しだけ焦ったような声をだす。
「好き――」
「俺の顔をみて、言え――。愛してる、ずっと、お前の成長を待っていたんだ」
一度抜いて、僕は座っているジェイク様の正面に腰を下ろした。
「あ……っくるし……っ」
少しずつ飲み込まれていくジェイク様の剛直は僕の中の空洞を埋めていき、奥の行き止まりのようなところまで届いた。
「お前は、ずっと俺の側にいるといってキスしてくれたのに、覚えていないのか?」
「覚えて……ないです」
ジェイク様こそ、誰かと間違えているのだろう。
「まだ五つだったお前は、お母さんを恋しがってよく泣いていた」
「ヒッあ……っ、あっ」
「可愛いリヨン……。お前の成長を待っていたというのに……」
「あああぁぁぁ!」
奥をこじ開けるように捻られて真っ白に意識がとんだ。
駄目だ……今、何かとても大切なことをきいたはずなのに……。
「これほど俺を狂わしておきながら父上のものになるなんて、お前は本当に悪い子だ」
じんわりとお腹の中を満たす液体が溢れてしまうまで抱かれたことを、僕は発情の意識が飛んだままで知らなかった。
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