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「ま、まだお酒抜けてないんじゃないの」
「あー……別にいいだろ。どうでも」
「よくないし……」
「なんだよ。お前と風呂に入りたくて来たのに」
「!!」
突然のデレに戸惑っていると、あー、もう、と井筒が阿南の肩をぎゅっと引き寄せた。
「悪かったって。俺なりに、その……二人の時間をとは思ってたんだけど。お前には手抜きに見えたよな」
「……そ、んなこと、思ってない」
「いや、思ってるからキレたんだろうが」
「っ、こ、子供っぽいって思ってんでしょ?」
「いや、俺が悪かったなって思ってる」
「!!」
え、嘘、と井筒の方を見ると、濡れ落ちた髪の間から、本当にすまなさそうな視線が来ていて、阿南はそれにドキリとした。
(え、え、め、めちゃくちゃ可愛いんだけど……本当に困ってる?)
「俺だって、一応、お前とちゃんとした時間とってと思ってたんだが、その……つい仕事のことばっかり考えちまって悪かった」
「!い、や……井筒さんが仕事バカなのはわかってるし……俺だって旅行に誘ってくれただけでいいとは思ってたんだけど。その……欲が出てきちゃって、ワガママ言ってごめんなさい」
井筒からの言葉に惚けて、ぽうっと返したものの「待て、これ、ごまかされるパターン……」とも思う自分もいる。けれど、確かに明日も仕事だし、恋人になったからには、前みたいなワガママを振り回して呆れられるのも嫌だ。
(どうしよ、バランスわかんねえ!うう……)
恋人になったからには嫌われたくないし、彼氏の立場を手放したくない。こんなに可愛い顔を見せられて、えっちできないとか無理ー!と思ったけれど、それを素直に言ったら「は?」と人を殺しそうな目で言われる予感もする。どうしようと思ったときに、井筒の唇がそっと阿南の頬に触れて、いや、嘘、まじ、と思わずそちらを振り返った。
「あ……」
「いや、人いねえから」
「え、え」
「あー……明日の仕事があるからさあ。入れるのは無理だけど、その……」
口か素股じゃだめ?と聞いてくる彼の目元はとろんとしていて、確実に酔っている。けれど、阿南はその破壊力に耐えきれなくて、顔を覆って「今すぐ部屋帰ろう……」というのが精一杯だった。
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