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ラブソング 03.気の強い女
女は、俺と同じ年で30代の女だった。
晩婚化、女性の社会進出。
そんなこと言ったところで、結婚してる奴は、とうにしている。
きっと性格か見た目に、難ありの女なのだろう。
だから取引先の父親もそんな娘を心配して、こんな見合い話を決めたに違いない。
俺だって、まあ似たようなもんで、遊んでいても結婚までは、進まないほうだった。
それに金を貯めたいとはいえ、この年まで実家暮らしをしている男も、どうなんだと自分でも思ってしまうくらいだ。
相手だって、気乗りしているはずもなかった。
携帯のバイブの音がする。
俺は、その音に起こされるようにして、目を開けた。
そこには、先ほどより少し喧騒としたホテルのロビーが目に映る。
どうやら、眠ってしまったようだ。
まあ、1時間もあったし、そうそう時間は、経っていないだろう。
そう思ったが、未だバイブする携帯を見て驚いた。
時刻は会う予定の時間をさしている。
ヤバイ、遅刻だ!
俺は、一目散にレストランへと走って行った。
レストランは、このロビーのすぐ隣にある。
5分もあれば、間に合うはずだった。
ドンッ
だが急いでいた俺は、途中で、走っていた女性にぶつかってしまった。
慌てていて、前を見ていなかった証拠。
俺は、ぶつかって、その場に尻餅をついた彼女に声を掛けた。
「すみません、大丈夫でしたか?」
女性は、尻餅をついたままこちらを向く。
「大丈夫。」
そう言う彼女は、紺のワンピースに長い髪を編みこんでいた。
その精錬とした姿に、一瞬だけ見とれてしまったが、すぐに怪我がないことを確認して、俺は彼女に手を差し出した。
でも、
「結構です。」
そう言うと、彼女は自身で立ち上がっていた。
軽く埃でも払うような仕草をすると、
「気をつけて。」
それだけ言って、また走りだす。
俺だけが奇妙なポーズのまま、その場に固まってしまった。
確かに彼女は、俺にぶつかったために、尻餅をついていた。
だが、だとしても走っていたのは、彼女も一緒だ。
もしかして俺のように、何か待ち合わせか、大事な用があったのかもしれない。
でも、互いに謝るのが普通じゃないのか?
面倒くさそうな女。
それが俺の、彼女への第一印象だった。
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