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ラブソング 05.予期せぬ再会
「お前、この間のお見合い、断られたぞ。」
段々とあの時のことも忘れてきたと思ったら、ある日突然、親父から、そんな報告を受けた。
断られたということは、また再度、申し込んでいたのか?
疑問ではあったが、どうせ顔も合わせていないのだから、気まずさもない。
ふーん。
俺は、その言葉だけで、その会話を終わらせる。
あの日は本当に最悪だった。
親父には遅れたことを数日経った今でも言われ、挙句にお見合いにならなったのだから、約束は無効とまで言われた。
俺もそれには食って掛かったが、親父の言い分はもっともで、結局は俺の日ごろの行いだの、なんだのに話がそれてしまう。
俺は、もうその話題にすら、触れることをやめていた。
そんな頃だった。
「あの、居酒屋、花房ですが、」
夜中、風呂あがりに久しぶりに酒でも仰ごうと思っていた俺に、急に連絡が入った。
いきなりなんだとは思ったが、店の名前には聞き覚えがある。
『居酒屋、花房』
親父の行きつけの店だ。
もしかして何かしでかしたのかと話を聞くと、どうやら酔いつぶれてしまって、自力では帰れそうにないらしい。
携帯で息子を呼んでくれ、と言った後に、寝入ってしまったと伝えられた。
困った従業員の声が聞こえてくる。
あの、クソ親父!
どんだけ飲んだんだよ。
俺は店の場所を聞いて、そのまま車で駆けつけた。
まだ酒を飲む前に連絡がきたことが、幸いだった。
店に入ると、そこには、カウンター席で突っ伏して寝ている親父の姿が見える。
もう店も閉店、間近なのだろう。
あまり客も見当たらず、カウンター内の店主が、助かったという顔で俺を見ていた。
俺は、店主に謝罪を述べると、迷惑な客を引っ張り起こす。
寝ぼけた親父が、よう!遅かったな、と抜かすもんだから、その場に放置して帰ろうかとも思ったが、店のことを思うとこれ以上迷惑は、かけられなかった。
すいません、とそう言って、帰ろうとしたところで、
「あの、そちらの方も、」
と声を掛けられた。
振り向いて見れば、そこにはもう一人、親父の隣の席で、突っ伏している人間がいた。
親父の知り合いかと思ったが、当の本人は、また眠ってしまったらしい。
どうしようかと思ったところで、
「すみません、父がご迷惑を、」
店内に女性が現れる。
ラフなズボンに、Tシャツを合わせている女性。
でも俺は、現れた彼女に、思わず心の中で、声を上げてしまった。
その彼女は、あの日、俺とぶつかった印象最悪の女だったのだから。
彼女は、俺のことを覚えていないのか、特に何も言わなかった。
「父が、いつもすみません。」
彼女は、そう言って俺に頭を下げた。
そんな彼女の姿に、俺は少し拍子抜けしてしまう。
あの時、気をつけて、と言っていた彼女とは別人のように思えたから。
だがお父さん、と声を掛ける彼女に、
「ああ、すまないね。」
と言って、顔を起こした男性は、やはりあの時の俺の見合い相手の父親だった。
これは、つまり?
俺の頭は、そこで思考を停止した。
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