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第9話 トトメス王子、砂に埋もれし巨大な人頭岩と出会うの由
イウヌへやって来た当初は"古びた田舎屋敷"といった雰囲気だったトトメスの仮初めの家は、今や見違えるように綺麗になっていた。
新築も同然、とはいかないものの、窓枠と扉を嵌めなおし、床には新しい敷物を敷き、古い家具には布をかけて傷が目立たないようにした。すべて、ベセクが指示して新しい使用人たちとともにやってくれたのだ。そして今は、力持ちのメンナが桶と小手を手に、外の壁にせっせと漆喰を塗りなおしているところだった。
「これだけやれば、王子の住まいとしても恥ずかしくはないでしょう」
ベセクは自慢げだ。
「うん、まあ、俺は住むところはあんまりこだわらないんだけどね。」
言いながら、トトメスはちらちらと台所のほうに視線をやった。奥ではマイアが、メンネフェルから仕入れて来てもらった新しい鍋を使って、豆の煮込み料理を作ってくれている。一緒に入れた香辛料の良い香りが、廊下のほうまで漂って来ている。
「やれやれ。うちのご主人は、体裁よりは飯のほうが気になるらしい」
ベセクは苦笑している。「ただまあ、気持ちはわかりますよ。あの子の作る飯は美味いですからね」
「うん。それにメンナも良く働いてくれる。助かるよ」
この街での暮らしが始まってからというもの、トトメスは、まだ自分の悪い噂に一度も遭遇していなかった。不運は相変わらずで、出歩くたびに急病人に出くわしたり、意味もなく階段から落ちたりするのだが、それが不思議と良いほうに取られるのだ。
寝台の下に棲む獣についても、あれ以来、誰も気づいた様子はないから、大人しく隠れているのだろう。
(要は、気持ちの持ちよう…なのか?)
ほんの少し、トトメス自身も前向きになりはじめていた。
「それにしても上手いもんだなぁ、メンナ。まるで本職の大工みたいだ」
「兵士をやってた時に、砦の修理やなんかを少しやってたんですよ。それで――あっ、足元にお気をつけ…」
「わあぁっ」
調子に乗った先から、これだ。
メンナの手元を覗き込もうとした途端、足元に置いてあった漆喰の入った桶に躓いて、派手にサンダルを汚してしまったのだ。
「あーあ、またですかトトメス様」
「ううっ…」
「仕方ないですね。まだ乾いていないうちなら、井戸で洗い流せば間に合いますよ」
呆れ顔のベセクに急かされて、トトメスはがっくり項垂れながら、隣の神官たちの住まいの前庭にある井戸へと向かった。井戸の側には数人の神官たちがいて、なにやらひそひそと話合っていた。
ベセクが水桶を井戸の中に降ろし、水を汲み上げてくれている間、トトメスの耳に、聞くつもりもなかった会話が流れて来る。
「では、高台の噂は相変わらず?」
「そうらしい。もうじき夏至の祭りだというのに、唸り声のようなものを聴いたという声は日増しに増えている。住人の不安も募っているという…」
「…冥界神の大神殿は何も言っていないのか」
「それがな。向こうの大神官は、うちの管轄ではないと言っているらしい。ケペルカラー様にご相談したいところなのに、今は神託の儀式にかかりきりで」
「メンネフェルからの使者も、不安を訴えに来た住民も、アメンエムオペト殿が、そんなものは気のせいだと言って追い返してしまったんだ。」
「はあ、また、あの御仁か。まったく…こちらの神殿のやり方も知らないのに、口を出さないでいただきたいものだよ。」
「ケペルカラー様が早くお戻りになれば良いのだが…今年はやけに時間がかかっているようではないか。」
「それが、今年の太陽神様の予言は過去に例のないもので、解釈が難しいのだとか。王にも報告される内容だ。内容が違えば、この神殿の権威が失墜する。」
「ふうむ。それでは、急かすわけにもいかんな。しかし、どうすれば…。」
水の音で、神官たちの微かな声がかき消された。
視線を足元に戻すと、ベセクが、桶の水をトトメスの脚に流しかけているところだった。
白い漆喰が洗い流されて、地面を流れてゆく。
「これでよし、と。新しいサンダルと布を持ってきますよ。少し待っていてください」
ベセクが家のほうに駆け戻っていく間、トトメスは、深刻そうな顔を突き合わせている神官たちの様子をそれとなく伺った。彼らを悩ませているのは、例の、対岸の"聖なる墓所"で聞いた不思議な声の話なのだ。
(俺の他にも、聞いた人たちが沢山いるのか。それなら、あれは…やっぱり、夢でも幻聴でも無かったんだ)
察するに、ケペルカラーが聖務で籠っている間、幅を利かせているアメンエムオペトの手前、勝手に調査に出かけることも出来ずどうすればいいか困っているようだ。
「あのう」
思い切って、トトメスは神官たちに声をかけた。
神官たちは、トトメスが居ることに気づいていなかったらしく、慌てた顔になる。
「あ――、殿下、その…」
「いまの話、俺が調査に行って来ようか? 表向きは、興味本位ってことにして。俺なら神官ではないし、誰も文句は言わないだろ」
神官たちは驚いた様子で顔を見合わせた。
「殿下が、ですか? しかし…」
「この神殿で世話になっているんだ、少しくらい役に立たせてくれ。どうすればいい? 声の聞こえて来る場所を探せばいいのか。それとも、聖水でも撒いてくればいいのか。」
僅かな戸惑いの間の後、神官たちの中で年長の一人が、仲間たちを代表して一歩、進み出た。
「いえ。おそらくは、声の主は"夜明けの守護者"だと思います。」
「夜明けの守護者?」
「夜明けの光を受けて声を上げる、と言われている像です。古い言い伝えによれば、あの高台の端に建てられた、古代の王たちの墓所を護るべく作られた守護者…らしいのですが、長年のうちにそれは埋もれてしまい、どこにあるのやら、姿は見えなくなってしまいました。声は決まって、夜明けから昼までの太陽の高いうちに聞こえると言います。であれば、死霊や冥界の生き物ではなく、その像なのではないかと」
「ふうん…つまり、その像を探して掘り出せば、声は収まるってことか」
「予想が正しければ、おそらくは」
「判った。そのくらいなら何とかなりそうだ。行ってみるよ」
「申し訳ありません。殿下に、ラー様のお導きのありますように」
神官たちは、揃って頭を下げた。誰かに信用して仕事を任されることなど久しく無かったから、妙にむず痒い。と同時に、大失敗に終わった、春の葬祭の儀式のことを思い出して、胸の奥がちくりと痛んだ。
(――いや。でも、今度は…今度こそ、上手くいくはずだ。)
ちょうど、サンダルを手にしたベセクが戻って来るところだ。
「ベセク、俺はこれからもう一度、対岸の高い台に行くよ。ちょっと付き合って貰えないか」
「へ? …対岸? 何でまた」
「少し頼まれ事をした。ここの神官たちの代理だ」
サンダルを履き替えると、彼は笑って、ベセクの肩をぽんと叩いた。「そうそう失敗するような話じゃないから、今回は大丈夫だよ」
「はあ…。」
意気揚々としたトトメスとは裏腹に、不安そうなベセクの声が、彼の心情を物語っていた。
西の高台に登るのは、トトメスにとっては二度目だった。
三つ並ぶ石積みは相変わらず巨大で、どうやって作ったのかと首をかしげるしか出来ない。けれど二度目ともなると、細かいところにも気がついた。遠目には、真ん中の三角の石積みが一番大きいと思っていたのに、実際はひとつ右側のものとほぼ同じ大きさなのだ。大きく見えるのは、一段高い場所にあるせいだった。
そして、いちばん左端の、少し小さい石積みは、他の二つの半分ほどの高さと大きさしかなく、周囲には、さらに小さい幾つかの小山のような石積みが、半分ほど砂に埋もれて並んでいる。
「はあ、近くで見るとずいぶん大きいんですねぇ…」
荷物を持ってついてきたベセクは、初めてここへ来た時のトトメスと同じ顔をして、ぽかんと口を開けて石積みを見あげている。
「だろう? 近くまで行こうとしてもなかなかたどり着けないんだ。」
言いながら、彼は記憶を頼りに崩れかけた神殿の跡を探した。
前回ここへ来た時、地の底から響くような声を聞いた場所だ。
あの時、声は確かに「出してくれ」「苦しい」と言っていた。太陽神殿の神官たちの言うとおり、砂に埋もれている大昔の像が声の主なら、あの声の聞こえた場所の近くに像があるに違いない。
場所は、もう知っているようなものなのだ。これなら失敗するはずもない。
「あ、あったぞ」
目的地の、崩れかけた神殿はすぐに見つかった。折れた柱が何本か、辛うじて屋根を支えているだけの場所。壁の浮彫はほとんど風化し、吹き溜まった砂の中にコウモリの糞が点々と落ちている。
「この近くにあるはずなんだ。」
「その、ナントカの像ってやつですよね? 神官たちが言っていた、という…」
ベセクはまだ、半信半疑のようだ。「砂に埋もれた古代の像が喋るだなんて、にわかには信じられませんよ」
「死霊と像の声、どっちを信じたい? まあ、実際に声が聞こえれば信じるとか信じないとかの話じゃなくなるんだが」
見上げれば、太陽は既に天頂を過ぎている。神官たちの話では、声は"夜明けから昼まで"の太陽の高いうちに聞こえるということだった。今からではもう、声は聞こえまい。
「うーん…」
だが、像のあるのはこの近くのはずだった。
「何も聞こえませんね。まぁ、そのほうがいいんですが。で? どこから始めますか」
そう言って、ベセクは背負って来た荷物の中から砂を掻き出すための桶を取り出した。
「神殿の周りだと思うんだ。この辺りを探してみよう」
「その像、どのくらいの大きさなんでしょうねぇ」
「そういえば、大きさは聞いてなかったな…」
トトメスも小さな桶を手に、あたりの砂地に目を凝らし、それらしい場所を少し掘って探してみた。
けれど、膨大な砂原にたった二人だ。目印もなく、特徴も判らないものを探し出すのは、たとえ大雑把な場所が判っていても難しかった。
時間だけが過ぎて行く。じりじりと太陽の光が肌を焼き、汗が噴出して来る。
「ふうん。トトメス様、この神殿、どうやら道がくっついてるみたいですよ」
「通路?」
振り返ると、ベセクが手際よく退けた神殿の周囲の砂の下に、石を敷き詰めた参道が斜めに見えていた。参道の行く手を視線で辿ると、三つ並んだ石の山の真ん中のものが現れた。
「あの石の山まで続いているのかもな。多分、ここが墓所への入り口なんだ。だとしたら、守護者の像があるのは、やっぱりこの辺りのはずだよ」
言いながら、彼は参道の側に突き出している小さな岩山のてっぺんに視線をやった。丸みを帯びたその岩は参道のすぐ近くにあって、邪魔になっているような気がしたのだ。
(何で、こんなところに岩があるんだろう…)
後から持って来たものではなさそうだ。参道や神殿は、その岩の周囲を避けるようにして少し斜めに配置されている。岩が大きすぎて、削って退かすことも出来なかったのだろうか。
そんなことを思いながら近づいて眺めていた時、足の下で、かすかに砂が震えた。
『…うぅ』
「へっ?」
視線を下にやったトトメスは、思わず息を飲んだ。
今までただの岩だと思っていたそれに、蚤の跡があることに気が付いたからだ。それに、よく見ると薄っすらと青い染料の跡も残っている。これは、ただの岩ではない。
まさか――。
「ベセク! ここへ来てくれ」
「はい?」
桶を手に、ベセクが駆け寄って来る。
「これ、ただの岩じゃないぞ。掘り出してみるから、手伝ってくれ」
「分かりました」
力を合わせて砂を掻き出していくにつれ、岩の下から思いもよらなかったものが現れ始めた。
まず、聖蛇の形をした飾り。額に着けるものだ。それから目のような深い彫り込みと、ぴんと筋の通った鼻。きりりと結ばれた唇。
彩色の跡の残る丸みを帯びた部分は後頭部で、かつらの一部だった。古来の様式に従って、ひだも再現されている。
あごの部分まで掘りだしたところで、トトメスは手を止め、汗を拭いながら呆然と巨大な顔を見つめた。
「でかい…ですねぇ…」
普段は何事にも動じないベセクでさえ、感銘を受けたように呟く。
「ああ。まさか、こんなに大きいとは…思わなかったな…」
顔ひとつだけでも、これまで見てきたどんな像より大きい。この像が生き物だったら、トトメスたちなど一口に丸のみされてしまうほどの大きさだ。けれど、背後に建つ巨大な墓所の巨大さに見合うだけはある。
『ふぅ~…はぁー…』
ふいに、像が口を開けたので、トトメスは思わずびくっとなった。
風化した岩でしかなかった目に光が宿り、ぐるりと動く。
『ああ、やっと楽に呼吸が出来る。助かったぞ、小さき者たちよ。ささ、早う我をこの砂の内から出してくれんか。このままでは背中が重くてかなわん』
「あ、…あ」
「どうかされましたか、トトメス様」
青ざめているトトメスとは裏腹に、ベセクは何も気づいていない様子で不思議そうに首をかしげている。
「えっ…と。これ、全部掘り出さないといけないみたいなんだ…」
「えぇ?! 全部、ですか? 二人じゃとても無理ですよ」
「人を雇うしか無いな。俺はここで待ってるから、ベセク、頼めるか」
「……ううーん、時間がかかりますよ」
額に手をやりながら、ベセクは唸った。
「やるしかないんだ。頼む」
「分かりました、近くの村へ行って人手をかき集めてきます。今なら農閑期だろうし、人手はなんとか…ただ、今日一日じゃ足り無さそうだなあ…」
ぶつぶつ言いながらも、彼は高台のすぐ下に見えている農村のほうに向かって下ってゆく。
ほっとして、トトメスは改めて巨大な顔のほうに向き直った。
さっきのベセクの反応からして、岩の顔が動いたり喋ったりしているように見えるのは、トトメスだけなのだ。どうして自分だけなのかは分からないが、
「ええと…。あなたが、"夜明けの守護者"なんですよね」
『うん? 何だ、そのような名で伝承されておるのか。我が名は夜明けの地平のホルス。この聖なる地の守護者である』
像の声は地の底から響いてくるようでもあり、天から響くようでもある。そして顔は人間のようでもあり、獅子のようでもある。
『はー、しかし偉い目にあったわい。千年ぶりに目を覚ましてみれば目の前は真っ暗、何もかんも砂に埋もれて息も出来んとはな。我が聖所がこんなに寂れとるとは思わんかったわ』
「…ずいぶん、ノリ軽いですね」
『ノリ? ノリとは何だ。』
「あーえっと…なんていうか、雰囲気です」
トトメスは砂の上に桶をひっくり返してその上に腰を下ろした。自分の何十倍も大きな顔と向き合うのは、奇妙な体験だ。
『汝は、神官では無さそうだな』
「違いますよ。でも、イウヌの太陽神殿の神官たちに、あなたを探すよう頼まれたんです。砂の中から声がするって近くの人たちが怖がっていたんで。」
『そうなのだ。掘り出してくれと声をかけたのに、皆逃げるばかりでなぁ』
はああ、と深いため息をつくと同時に、砂が噴き上がるように揺れた。トトメスは慌てて手で顔を覆った。巨大な像の溜息は、それだけで周囲に小さな砂嵐を巻き起こす。
『間もなく夏至が来る。それまでに、我が主を迎える準備をせねばならんというのに、砂に埋もれて身動きとれんとは、まったく、不甲斐ない』
「主?」
『我の背後に聳える聖なる墓所にて千年の眠りについておいでのお方が、戻って来られるのだ。我を無垢の岩より掘り出し生命を与えたりし王、生ける太陽の似姿、永遠なりし太陽神の如く出現する者が』
トトメスは、思わずあんぐりと口を開けて巨大な顔と、その背後に天を衝くように聳え立つ人工の岩山とを見比べた。
古代の王が、戻って来る?
それではまるで、メリラーの言っていた伝承そのままではないか。
「戻って来る、って、死者が、ですか? どうやって」
『そのために、王はこれらの巨大な装置を作らせたのよ。不滅の太陽の力を借りて死を超越され、千年の時を越えたこの時代にお戻りになるためにな。詳しくは言えんが、王にはこの時代で成されねばならぬ重大なお役目がある。案ずることはないぞ、小さき者よ。全ては太陽神の定めし世のことわりのままに動くのだ。ただしそのためには、夜明けの扉を開く者たる我が力を取り戻すことが必要だ』
ホル・エム・アケトと名乗る像の言葉はいささか古風でところどころ解釈が難しかったが、つまりは、この像を掘り出すことで、像の背後にある岩山から古代の王が蘇る準備が整う、ということらしい。
本当にこの像に手を貸していいものかどうか、トトメスは少し不安になった。
「あの、その大昔の王様って、何をする気なんですか。今、この国にいる王は、どうなるんですか」
『うん?』
「ひとつの国に二人も王がいたら、おかしなことになるでしょう」
『…ふっ、はっはっ!』
岩山のような像が、身体をゆすって笑った。地面が揺さぶられる。桶からずりおちて、トトメスは思わず尻もちをついた。
『案ずるな。我が主どのは、あくまで一度は死んだ身なのだ。成すべきことが終われば死の国に戻られる。生者の国で争いが起きることなど心配せずとも好いぞ』
「はあ、…」
日は、少しずつ傾き始めている。
像の目元に薄く影が落ち、力強かった声が、少し小さくなった。
『我は夜明けの守護者なのだ。…日の出とともに力を得、真昼に最も力を得る。それを過ぎれば弱まる…じきに…眠りに就く時間だ。小さき者よ、どうか…我を』
「あ、はい。判ってます。全部掘り出せばいいんですよね」
『うむ。頼んだ…ぞ…』
目のあたりに宿っていた光が消え、口元の動きが無くなる。光の確度がほんの僅かに変わっただけなのに、たった今まで生きているように見えていた像の顔は、ただの色あせた岩の塊に戻っていた。
(…不思議だな。今までの俺なら、こんなの信じられなかったはずなのに)
太陽に照らされて熱を帯びた、ざらざらした岩の表面にそっと触れる。確かに、ただの岩なのだ。それがさっきまでは喋って、息をして、人間のように笑っていた。
イウヌへ来てからずっと、おかしなことばかりだ。
不運だと思っていたことが実は不運では無かったらしいこと。寝台の下に棲んでいる冥界の獣に気づいたこと。地の底から響く声の正体と、喋る岩の巨像。それらと出会った後では、古代の王が蘇るという荒唐無稽な言い伝えですらも真実なのだと思えて来る。
これから何が起きるかは分からない。
けれど少なくとも、それは、失敗続きで部屋に閉じ困って腐っている日々よりは、はるかにマシなはずだった。
ベセクが戻って来たのは、夕方近くなってからのことだった。
「なんとか人手は工面しましたよ。明日の日の出から作業を始めてくれるそうです。」
「そうか。」
それだけ言ってじっと岩の顔を見つめているトトメスを、ベセクは怪訝そうな顔をして眺めていた。
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