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終話 真夏の砂の夢
それから、どうしたかって?
都に呼び戻されたトトメス王子は、父王から二度目の葬祭の儀式の主役に指名され、こんどは何とか無事に勤め上げてみせた。
そしてその直後、約束通りネフェルトイリと婚儀も執り行った。祝いの儀式の場では足を滑らせ、頭から酒壷に突っ込むという、いつもの"不運"も見せつけたそうだが、花嫁は何故か大笑いして、とても嬉しそうだったそうだ。
その後、王子は都に留まり、アアケペルウラー王の右腕として、多くの政務に関わった。
実質は後継者の扱いだったが、彼は頑として皇太子の称号は使わなかった。けれど養育係親子の強い推薦もあって、結局、王位を継ぐことにはなったそうだ。王名はメンケペルウラー。名を選んだのは、イウヌの太陽神殿の長だ。
王は即位して最初の年に、"聖なる墓所"の建つ西の高台に戻り、巨像の前脚の間に、不思議な物語を刻んだ記念碑を建てさせた。
そう、半分欠けてしまったけれど今もその場所に残る、あの碑文の正体だ。
" 陛下の即位一年目、増水期第三月 十九日目
輝きを得たる二女神のお気に入りにして剣の強大な黄金のホルスであるお方、上下エジプトの王メンケペルウラー、ラーの息子トトメス、王冠の輝くもの。
九柱神の寵愛を受け、太陽神の街を清め、ラー神を満足させたるお方がまだ若き鷹であった頃、真昼の時間に、この偉大な神の影の中で休んでおられた。
太陽が天頂を迎えた時、ホル・エム・アケトは自らの口で語った。
側に来たれ我が息子トトメスよ、我は汝に地上の王国と王冠を授けよう。
我が顔は汝に向けられ、我が心は汝の元にある。
我が聖域にて望むことをせよ、トトメス。我が息子よ、我が守護者よ。
見よ、我は汝とともにあり。我は汝を導くであろう。…"
王の座にあった十年余りの間、トトメスは相変わらず"不運"なままで、そのくせ大きな怪我もせず、決して誰も巻き込まず、やらかした失敗のお陰で何か良いことが起こるという、不思議な強運の持ち主であった、という。
-了
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