秋雨神社10:12

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秋雨神社10:12

小さな子どもたちがはしゃぐ声がする。 「ずるい!鬼は10秒は動いちゃだめなんだよ」 「数えたもん」 こおり鬼だろうか。私も低学年ぐらいの頃やってたな。 懐かしい気持ちのまま、ゆっくりと目を開けると、自分が土の地面近くに横たわっていると気付いた。 視線の先にある細い木々に囲まれた一角で、4、5歳ぐらいの女の子と男の子が遊んでいる。 「ここは………」 「あ、起きた。おはよー」 頭を傾けて見上げると、木漏れ日を背景にしたハナの顔がニコっと笑っていた。私は樫の木にもたれて座る彼女の膝枕に頭を預けて、横になっていたようだ。 「わっ!」 驚いてはたと立ち上がる。制服についた血はどうなったかと自分の身体を確かめるが、それらしき汚れはどこにもない。 「急におっきな声出さないでよ。あそこにいるちびっこたちがびっくりするじゃん」 「え?」 私がふと子どもらのほうに目を向けると、不安げな表情でこちらを見ていた。 「あ、なんでもない。ごめんね」 子どもらは返事をせず、自分たちの遊びを再開した。 「マスクしてないけど、ウチは感染症にはかからないから安心して。人混みでは周りに合わせてつけるけどね」 「いや、そこじゃなくて、さっきのあれ……」 「ああ、血のこと?ウチの血はすぐに乾いて蒸発するから跡にならないの。現にあなたの制服、もうすっかりキレイでしょ?」 「……………………」 ハナはあくまフレンドリーに接してくるが、先程遭遇した怪奇現象の光景が頭から離れない。 「あなた……何者?」 「まあ、そうなるよね。ウチは東久世(ひがしくぜ)ハナ。17歳のLJKだよ」 「ひがしくぜ?」 「珍しいでしょ?今まで同じ苗字の子に会ったこと一度もない」 「そんなことじゃなくて………」 ハナは立ち上がって制服の土を払い、私のそれ以上の質問を遮るように言った。 「名前、教えたんだけど」 「あ、ごめんなさい。私は愛来っていいます」 「アイラちゃんね。まあ、ゆっくり説明するから、とりあえず移動しよ」 「移動って、どこへ?」 「ここからなら、ハイカラーセンターがいいかな。タピオカおごるよ。どうする?」 ハイカラーセンターというのは、野球場ぐらいの広さがある、街で一番の商業施設だ。 「どうするって言われても……」 「このまま何も知らずに、何も見なかったことにするのも自由だよ。でももう学校も行きそびれちゃったでしょ?原因はウチにある訳だし、せめてお詫びぐらいさせてよ」 「……………」 普通の女の子に見えるけど、間違いなくハナはまともな人間ではない。このまま彼女に付き合えば、まともじゃない世界に引き込まれるんじゃないかという警戒心はもちろんある。 クラスでも目立たず波風立てずひっそりと生きてきた私は、面倒事は避ける性格だ。 ただ、彼女が一体何者なのかを知らないまま、全部無かったことにしてまた明日から日常に戻るという選択は、逃げ腰すぎやしないかとも思う。 「弱虫~」 「!?」 子どもたちがそう言った。私にではなく、子どもたちの会話のなかで出た言葉のようだったが、私はその言葉に背中を押された。 「タピオカじゃなくて、シュシュグリエのシュークリームならいいよ」 「おけ」 ハナは両手の指でマルを作って、細い目を更に細めてニッコリと笑った。 さっきまでいた子どもたちは、いつの間にかいなくなっていた。
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