ハイカラーセンター屋上

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ハイカラーセンター屋上

ハイカラーセンターの屋上にある、遊具や芝生のある庭園は、周囲のタワーマンションに住む子連れの母親たちでお昼はごった返しているのだが、その日は珍しく空いていた。 広場のベンチに私とハナが並んで腰掛け、ハナがシュシュグリエの紙袋を私の膝の上にポンと置いた。 「どうぞ」 「……ありがとう。あなたのぶんはいらないの?」 「食べられないんだ、ウチ」 「アレルギーとか?」 「あー、そんな感じ」 曖昧に返事をするハナに、私はそれ以上理由をきかないほうがいい気がした。 こんがりと良い色に焼けたシュークリームを取り出し、一口かじる。皮のさくさく感と濃厚なクリームのフレーバーが、混乱した私の心を落ち着かせてくれる。 「……大騒ぎになってる?駅のあれ」 携帯をいじるハナにきくと、ハナはTwitterのトレンド上昇ワードの画面を見せてきた。 上位の検索ワードはコロナの感染者数やスポーツ選手の不倫の話題だった。 あれだけのことが起きて、大勢が携帯のカメラを向けていたはずなのに、それらしき話題はあがっていない。 「ちゃんと消されてるよ」 「消される……?」 「自分で言うのもあれだけど、あんなグロいシーン、すぐに削除対象になるから」 「確かにそうかもしれないけど……」 「それに、ウチの情報部も仕事するからね」 聞き慣れない言葉に、私は首を傾げた。 「?どういう意味?」 「さっきのを録画してアップしても、すぐに消されるからリツイートしても拡散されない。見た人が誰かに話しても、まず鵜呑みにする人はいない。時間が経つにつれて見た本人も何かの見間違いだったのではと思うようになり、やがてなかったことになる」 ハナは退屈そうに携帯の画面をスワイプしている。 「都市伝説として噂は残るかもしれないけど、事実としては広まらない。さっきのあれは、なかったことになるんだ」 「そんなはず………」 ハナがキッパリと言った。 「そういうものだよ、世の中って。前もそうだったし」 「…………………」 ハナの言う通りだとすれば、電車に飛び込んで折れ曲がった身体を自力で元に戻した女の子がいた事実を事実として記憶している人間は、やがて私とハナだけになる? 私の口から、ぽろりと本音が出た。 「私も、あんなもの見なかったことにしたかった……」
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