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春樹の言葉に結菜が悲しそうな顔をする。それもこれも父親である春樹のせいだ。
友達の誕生会に呼ばれた小学四年生の結菜は、先月買ったばかりの花柄のワンピースを着てそわそわしていた。春樹がどうしたのかと聞いてみると言いにくそうに言う。
「ママがしてくれてた髪型にしたいのーー」
母親の香澄は半年前、病のためになくなった。身体の不調に気づいた時には、かなり進行していて、春樹と結菜は、病と闘う香澄を見守ることしかできなかった。薬の副作用で苦しいときもあったはずなのに、娘の前では気丈にふるまっていた。他愛もない話をしながら談笑する母と娘の時間は、貴重なひとときだったから、春樹は二人をそっと見守っていたのだがーー
「ママがしてくれた髪型ってーー」
「去年の発表会の時にママが編み込みをしてくれたの」
「去年の発表会って、ピアノの?」
うなずく結菜に、春樹は慌ててスマホの写真を探し出す。そこには、元気だったころの香澄と笑顔の結菜が写っていた。
「このときの髪型にしたいの」
香澄は何か特別な事があるとき、結菜の髪を可愛いらしく編んでいたのだが、記憶をたどってもどんな風に編んでいたかがよくわからない。何枚かある写真を見ても、後ろから写した写真はなく、春樹は途方にくれる。
「ごめん、結菜。パパにはできないんだーー」
あからさまにがっかりする結菜の表情に胸が痛む。少しでも元気づけたくて、
「そうだ、ワンピースと一緒に買った髪飾りがあっただろ?あれをつけてあげるから、持っておいで」
結菜が子ども部屋から持ってきたワンピースと同じ色のシュシュを二つに分けた髪に飾った。今のところ、春樹にできるのはツインテールとポニーテールぐらいなのだ。
「これで可愛くなったよ。そろそろ時間だから、知花ちゃん家に行かないとーー」
忘れ物がないことを確かめて、結菜を送り出す。
「パパ、行ってきまーす」
友達のプレゼントの入ったバッグを持って出かけていったが、結菜は思い通りの髪型にできなくて、がっかりしているようだ。大人なら、形だけでも嬉しそうにしてくれるけれど、子どもは正直なだけに、ごまかしはきかない。
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