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引き戸の向こう側に行くと、ガシッと肩をつかまれる。それに、半ギレなのか、禿親父にしていたような恐ろしい表情だ。
「先に言えよ! お客さん来ているならさ~」
「えっ・・・・なんで」
ポロっとこぼすと、肩に置かれた手の力が強くなってくる。
「私は、客の前ではお淑やかにしてるんだよ! だから、あんな姿を見られたら・・・・・」
そう言って、さらにグイグイと力を込めてくる。
「どういうことです?」
「お前察しが悪いな~ つまり、猫かぶってるんだよ。分かるか?」
と天音はどや顔で言い放つ。
そう言われて、やっと理解した。
僕が店に客がいると言わなかったから、勢いよく引き戸を開けてしまったし、気の抜けた姿を晒してしまった。本当なら、禿親父に最初にしていたような大人っぽい感じにしたかったのだろう。
でも、何というか、自業自得過ぎる。普段から気を付けていればいいだけではないか。
それで、人のせいにされても・・・・・
少しいらっとしてきた。そして、ささやかな抵抗を思いつく。
「すみません どういうことです?」
「だから、猫かぶってるんだよ!」
「温かそうですね」
「そういうことじゃない! そもそも家には猫はいねぇ」
「なら、猫はどこから?」
「慣用句的なあれだ。お前分かっていってるよな?」
「何のことです?」
「だ・か・ら!」
天音の高めの声が段々と大きくなっていく。そろそろ頃合だろう。
仕返し一言。
「今の天音さんの声、店に響いてますよ・・・」
そういうと、天音の顔から怒りがスーッと引いていき、もう一度「あっ」という表情になる。
今いるのは、母屋と店を繋ぐ土間。それを隔てているのは薄い引き戸だけ。段々大きくなった声は、店の方にも筒抜けに違いない。
はめられたと気が付いたのか、肩をわなわなさせている。今にも殴りかかってきそうな感じだ。そうなったら、勝ち目がない。
「百合さん、いや、お客さんが待ってますから・・・そろそろ、行かないと」
お客さんの話をすれば、誤魔化せないかと思い口にする。
天音は「はぁ」とため息をつくと
「お前・・・後で覚えておけよ」
控えめな声量ではあるが、重みのある言葉を残して、店に出ていく。
どうやら、僕の命はここで終わりなようだ・・・
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