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正月明けのこの時期にスモックだけでは、寒すぎると思い急いで中に入れて、この前と同じように椅子を用意してあげる。
子供・・・・・短い髪からして男の子だろうか。男の子は、用意した椅子が少し高かったのか、飛び乗るようにして座り、黄色の帽子を取ると、いまだに不安げな顔を浮かべてこちらを覗いている。
「君の名前を聞いてもいいかな?」
小さな子への正しい接し方が分からないから、とりあえず出来る限り優しい口調を心がける。
「さとうゆうき!」
ふにゃふにゃとした子供特有の話し方で、自信満々に名乗ってくれる。
「ゆうき君は何歳?」
「5さい!」
掌をパーっと開いて、5を作っている。
ヤダ、ナニコレ、カワイイ
あまりの可愛さに、頭を撫でてみたくなるがグッとこらえる。
「ゆうき君、一人で来たの?」
首をふんふんと横に振る。
どうやら、違うらしい。
アー、カワイイ、ナー
途中で浮かんでくる雑念を振り払って質問を続ける。
「ママかパパは一緒じゃないの?」
「ママ迷子なの」
お母さんが迷子ということは無いだろうし、恐らくこの子が迷子になのだろう。
「しまったなぁ・・・・」
寒いだろうと思って、この子を中に入れたが、中に入れてしまったせいで逆に、母親が見つけにくくなってしまっている。
今頃、母親は一生懸命にこの子を探しているだろう。
だからと言って、もう一度この子を外に出してあげれば、良いというわけではないしどうしたものか・・・
迷いに迷った末に、レジの隅にある電話の子機を取る。
それから、一つだけ登録されている番号に電話をかける。
ツー、ツー、ツー
少しの間をおいて電話は繋がった。
「どうした? 客か?」
「お客さんと言えば、お客さんになるのかな・・・」
「はっきりしねぇな」
「ひぇ、ま、迷子が店に来たんです。中に入れてしまってどうしたらいいですか?」
「そんな事か。名前は聞いたか?」
「はい。さとうゆうき君です。」
「分かった。あとは、こっちで何とかするから、子守を頼むな」
「はい!」
あっという間に、電話が切られた。取り敢えず、これで母親がこの子を見つけることが出来るだろう。
軽くパニックになっていた自分とは、違い天音は平然と対応した。
これが、年の功というやつか。などと、考えているとふと、気になることが出来た。
「ゆうき君、今日は何しにここに来たの?」
たまたまこの店の前にいた可能性もあるが、何故だかそうでない気がする。
少し行けば、公園もあるし一人でいるなら、そっちのほうが楽しいだろう。
だから、この店の前にいたのには何か考えがあったのかもしれない。
「パパに、シュワシュワの、特別なジュースを買いに来たの!」
予想的中。
だが、シュワシュワの、特別なジュースとはいったい?
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