モエ・ド・シャンドン

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 ゆうき君と話していると、母親を連れた天音が戻ってきた。  母親は、パーカーにジーンズといった動きやすそうな服装で、髪が少し乱れており、表情には少し疲れが見える。  今、こうしてゆうき君と会うまで、ずっと心配で仕方がなかったのだろう。 そうして、母親につられてゆうき君は帰っていった。 最後に、「お兄ちゃんお願いね!」 と言って、きんちゃく袋を渡してきた。 断るに断れず、あいまいに返事をして受け取ると、満面の笑みを浮かべていた。  二人がみえなくなると、すぐに天音に泣きついた。 「天音さんどうしましょう~」 「まず、初めに言っておく。子供に酒は売らないからな。どんな理由があっても」 「でも、あの子と約束しちゃったから・・・・」  天音に泣きつき続けていると、「はぁ」とため息をついて 「で、どんな酒を探しているんだ?」  どうやら、話を聞いてくれるようだ。  それから、ゆうき君が言っていた情報を伝える。 すると、すぐに答えが出たようだ。 「たぶん、モエだな」 「モエって何です?」 「お前も少しは勉強しろ!」  そう言いつつ、僕のおでこにデコピンをしてくる。 「痛い」と声を出すと、「そうじゃないだろ」と言わんばかりにぎろっと睨まれる。 「すみません」 「まぁ、いい。モエはシャンパンの一つだ」 「シャンパンですか・・・」  自分の中でシャンパンは、夜の街で飲まれている飲み物ってイメージだ。 ぼったくりな店とか、未成年が働いているとか、そういうニュースを見ているせいなのか、あんまりいいイメージが無い。 「有名なのはドン・ペリニヨン。通称ドンペリ。ドンペリならお前でも聞いたことがあるだろ?」 「はい」 「ドンペリを作っている会社の他のシャンパンにモエってのがあるんだ。ドンペリの3分の1くらいで買えるから、家で飲む人とかもたまにいるんだ。」 「三分の一って言っても高いですよね・・・」 「まぁな。シャンパンって名前が付いている時点で、それなりの値段にはなるからな」 「それじゃあダメか・・・」 「何がだよ?」  先ほど、伝え損ねたゆうき君の父がいなくなってしまう、と言っていたことを伝え、きんちゃく袋を渡す。 「なるほどな。金はあっても300円くらいか・・・」  天音の表情も曇り始める。やはり、父がいなくなるということはそれだけ、深刻な問題なのだろう。そのまま、考え込んでしまう。  そんな時、入り口の自動ドアが開いた。 一日に何人もお客さんが来るなんて珍しいと思って、「いらっしゃいませ」と声をかけると、ゆうき君の母が一人店に戻ってきていた。
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