ロマネ・コンティ

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「じゃあ、なんでこんなにも高騰しているんです?」 「簡単に言えば、需要がものすごくあるのに、供給が極端に少ないからだな。最近、酒が投資の対象になってきているんだ。数の少ない酒は投資家にとって、絶好の投資先になっているんだよ」 「どれくらい少ないんです?」 「年間で、大体6000本しか出荷されないんだ」  6000本。ってことは、世界の国々の数を大体200とすると…一つの国に一年で30本しか入らない計算になる。まぁ、全ての国に均等に売られるなんてことは無いだろうけど、圧倒的に少ないように思えてくる。 「もっと作ればよさそうなのに…………」  売れるなら、それこそ万、億と作ってもよさそうなのに。 「そうもいかないんだよ」 「どうして?」 「これに使っているブドウの畑は、たった1.8ヘクタールしかないんだ」 「1.8ヘクタール?」 「東京ドームの三分の一くらいだ」  東京ドームに行ったことが無いから、正確には分からないが相当狭いことだけは伝わってくる。 「それに、その狭い畑は『ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ』っていう会社の単独の所有物で、そこでとれたもの以外には『ロマネ・コンティ』って名前を付けることが出来ないって決まりも値段に拍車をかけているな」  価格の理由は何となく分かってきたが、一番大事なところはどうなのだろうか? 「貴重なのは分かりましたけど、味はどうなんです?」 「『飲み手の魂を吸い取る』なんて称されるくらい評価の高いワインなんだが、少しパンチにかけるところもあって、ワインを飲みなれてない人からすると全然美味しく感じないそうだ。 でも、本当にワインが好きな人からすると、神のような味わいを楽しめる…らしい」  大人になったら飲んでみたいと心のどこかで思っていたが、僕じゃ楽しめそうになさそうだ。 「まぁ、実際は飲むんじゃなくて『僕はロマネ・コンティを持っているんだぞ』っていうステータスや自慢に使われることが多くなっているな。だから、価格も暴騰していく」  飲み物なのに、飲まずに持っているのがいい。って何だか、少しおかしいような気もするが、ここに来てから酒を買う人たちの金銭感覚は普通の人たちと違うと知った。だから、まぁ そんなもんかと割り切ることにした。  あらかた説明が終わると、セラーに『ロマネ・コンティ』を丁寧に戻す。 「そういえば、昔のワインなのに劣化は気にしなくていいんですか?」  ここに来たばかりの頃、劣化して濁り切ったワインを何本も廃棄したことがある。 ならば、このロマネ・コンティも劣化しているのではないだろうか? 「大丈夫。しっかりとした条件が揃っている場合に限るけど、ワインていうのは寝かすにつれて熟成が進み、味に深みが出てくるんだ。このロマネ・コンティは寝かすほどいいと言われるワインだから、しっかりとした条件下で熟成されたものは結構な額になるんだ」 「なるほど」 「間違っても、その辺に置いておいて熟成しようなんて思うなよ。それは熟成じゃなくて劣化していくだけだから、環境がないやつは大人しく買ったらすぐに飲むようにしたほうがいい」
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