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「ごめんなさいね。荷物持ちしてもらって」
「いえいえ」
僕と百合は店を出ると、とうに赤や黄色がはげ落ちて、黒々として物寂しく成り果てた木々が立ち並ぶ川沿いの道を歩いていた。
主要道からも遠く離れたこの道は、静まり返っていて一層、寂寥に包まれる。
百合のゆっくりで小さな歩に合わせて、静かな時間を過ごしていると
「そういえば、さっきの話なんだけど・・・・・・」
彼女が口を開いた。さっきの話とは、おそらくは途切れてしまった家族の話だろう。
「少し、悲しいお話だけど聞いてくれるかしら?」
「聞きたいです」
「私の旦那と息子は、二人とも持病を持っていたの。そのせいで、息子は8年前、旦那は3年前に亡くなってしまったの。息子が無くなってから、旦那はビールを飲まなくなってしまって、私も肴を作る機会が無くなっていった。何度か買ってきてあげたのだけど、知らないうちに親戚に挙げてしまっていて、一度も口をつけなかった。息子がいた時は、本当に楽しそうに飲んでいたから、好きなのだと思っていたけど、そうじゃなかったみたい。それから、あの人が逝ってしまってから、ふと思ったの。『私たちにとって、このビールはどんなものだったのか』ってね。」
「何だったんです?」
百合が一息ついた間に、気が急いてしまったのか口を挟んでしまう。
一息つくとまた、口を開く。
「私たちの楽しい時間の象徴なんだって分かったの。」
彼女はチラッと僕が抱えている箱を見て、優しい、悲し気な表情を浮かべる。
「それが当たり前だった時には、気にも留めていなかった時間が、私たちを幸せにしていたんだって気が付いたの。旦那と息子は楽しそうにジョッキを掲げていたし、私もその二人が美味しいって言ってくれるから、肴づくりが楽しくなっていたし、本当にいい時間だった。他の人から見たら、特別に感じないような普通の時間が、私たち家族の最高の時間だった。本当に、本当に幸せだったのよ。もっと、早く気が付いていれば・・・・・・」
最後の方は、聞き取るのが大変なくらい弱々しいものであった。平気な振りをしていても、心の中ではまだ、悲しみ続けているのかもしれない。
笑みがとてもよく似合う百合には笑顔でいて欲しい。だけどどうしたらいいのか・・・。
ふと、思い付く。
「百合さん!」
いきなり名前を呼んだせいか、百合はびっくりと肩を揺らした。
「どうしたのいきなり?」
「いつ、お墓参りに行くんですか?」
「そのうちね」
「その時、また荷物持ちさせてくれませんか?」
「そこまで迷惑はかけれないわ・・・・」
「迷惑なんかじゃありません! 百合さんの話を聞いて、旦那さんと息子さんに一言言いたいんです。 僕がしたいんです。お願いします!」
百合は僕の発言に、戸惑いを見せている。
僕はひたすら頭を下げ続ける。
「はぁ」と百合からため息がこぼれる。
その拍子に顔を上げると、百合の顔に明るさが戻っていた。
「分かったわ。でも、また来てもらうのは申し訳ないから、今からでいいかしら?」
「はい!」
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