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「お前どこで道草食ってたんだ?」
店に帰ると、猫が鬼になっていた。
慌てて、ことの顛末を天音に伝える。話をするにつれて怒りは収まり、まだ見たことが無いような優しい表情になる。つい最近、親を亡くしている天音は何か共感できるところがあったのかもしれない。
「そうか・・・ 今日はいい機会だったな。」
「えっ!?」
てっきり、怒られると思っていたから、変な声がこぼれてしまう。
「酒はな、ただの飲み物だけど、すごい力があるんだ。今回みたいに人を楽しませたり、
喜ばせたり、逆に悲しませたり、狂わせたり。そんな不思議な力が酒にはあるんだ。
今回のことで、それが知れて良かったな」
とニカっと笑顔を作って話してくれた。
天音の言葉を噛みしめていると、
「そういえば」と切り出してきた。
「何です?」
「墓参りの時に、なんて言ったんだ?」
百合には結局言わず、天音にも濁していたことを聞かれた。
「内緒ですよ」
そういうと、ガシッと肩をつかまれ、前後に振られ始める。
「いいから吐け!」
「い~い~ませ~ん」
だいぶ長いこと、揺らされてやっと解放してもらう。
解放してもらった後も、聞き出そうとしてきたが、何とか秘密を死守することが出来た。
やがて、この件に飽きたのか天音は他の仕事に取り掛かり始める。
そこで、少しだけ言っておくことにする。
「百合さん、何もなくてもお話に来るそうですよ~」
そういうと、天音はもう一度ニカっとして店の奥へと進んでいった。
「百合さんはもう一人じゃない。絶対にあんな顔はもうさせません。だから、安心してお供えを楽しんでください」
心の中で放った二人への言葉。
僕なんかが何か出来るか分からない。
でも、一緒にいることくらいは僕にでも出来る。
誰も助けてくれない辛さは僕が一番よく分かっているから。
もうあんな悲しい笑顔をしないで済むように。
「次はいつ店に来てくれるかな」
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