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「出る予定だった生徒がね。手を骨折しちゃってさ。代わりを探しているんだよ」
「でも。先生。私は一年生ですけど」
「私が顧問なんだよ。そして締め切りが月曜日なんだ」
五十を過ぎた真智子。職員室のデスクの上には大量の栄養ドリンクがあった。これを見た明日香は彼女を気の毒に思った。優しい明日香はこれを引き受けたのだった。
子供の頃から書道をしていた明日香。最近は稽古をしていなかったが、今回は何か書けば良いのと言うレベル。翌日の土曜日。早速書くことにした。
「なんて書こうかな」
お題のない今回。なんでも良いと言うのは実に難しかった。
よくあるのが中国の故事。これを書けば間違いないが、上手な人とかぶったら恥ずかしかった。
いっそ、『風』の漢字を、風のように散らして書くって言うのはどうかな。
書いてみた。でも、やはり自惚れ感が溢れた場違いな感じがした。
どうしよう……。何を書いたら良いの?
こうなったら昔の書を出そうかなとまで追い詰められた明日香は押し入れを漁っていた。その時。窓の外から廃品回収のアナウンスがした。
『ラジカセ、炊飯器、洗濯機。ご家庭で不要になった家電製品を回収します』
これが耳に入った明日香は、ヒントが浮かんだ。そして事を調べ、それを書いたのだった。
そして。これを仕上げた明日香は月曜日に携えてきた。
「先生。できました」
「ああ。助かった。でもね。明日香、まだお願いがあるんだよ」
急に放課後のプール当番になってしまったと話すジャージ真智子は、ボサボサの頭。体育教師の彼女は、この作品を届けてほしいと言い出した。
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