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棘、哀
彼方。
「大人になるということは
鋭さを失ってゆくこと なのかもしれない。
信じていた棘が削りとられて 丸く丸くまるく 。
感情が凪いでゆく ことなのかもしれない。」
面影、彼方。
棘 亡くなって、面白い生き物じゃなくなってしまったねと、人間に言われた訳、じゃない、のに。指に、こびりついた青は中々取れない。
空。
赤が吸収されて、青しか見えない。
目に見えるものは限られている、青い指、青い空。
一握り。ほんの一握り。この指で汚せるのは。
少しでも切り取りたかった、
祈るような気持ちでボタンを押していた。
切実な情動。失ったものを求めてしまう、情動。
今はただ、あの頃の棘を求めて指を動かしている。
諦念だけがある。
抽象的な話が具体的な話に変化してゆく、まともな人間になる為、抽象的なままでは居られなくなってゆく。曖昧さを愛していたのに、抗えないから抗えないままでいようと決めた、戦いはやめよう、無駄だから。
諦念と共に棘の先が円を描く。丸。
抽象的な君と、抽象的な話がしたかった。
あの頃の君と、私で。あの頃にしかないものがあって、それは若さとか怒りとか哀しみとか祈りとか。幸福が分かりやすかった。
布に覆われていない私達の唇は軽やかで自由だった。何も、何も悪いことはしていないのにね。只、人間だっただけなのにね。優しい世界を信じていると阿呆だと言われる。他人の揚げ足を取り、自分の利益しか考えていない。
まともな大人に。
具体的な人生、
自分は悪くないって思いたいだけ。
誰も悪くない=自分も悪くない(方程式)
幻だった、なんて思いたくないだけ。
天井見上げた、浮かんでいた、あの宇宙を失いたくないだけ。
この静けさ、共有できる人間が居たらいい、居なくてもいい。
流れ星に祈ったら落ちてくるだろうか。
星すら見づらいこの街では、夢物語。
さがしにきて。ずっと探している。
あの頃の貴方を失った、と思ったあの日から。
喪失感と共に、息をしている。
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