雨、偏頭痛

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雨、偏頭痛

絵画みたいだ。 私の居る街。雨の降る街。 雫が傘に当たって音を立てる。 キーボードに慣れてしまって、 文字を書くこと、忘れてしまいそうになる。 創る事、生み出す事。 先人達の真似事に過ぎないとしても。 あの頃の切実さを忘れてしまったとしても。 ␣, Ctrl+C ,Ctrl+V ,Ctrl ,Ctrl ,Ctrl,,,…………Alt+Tab. 使いこなせても考える時間が減るだけ、なのに。 速さ、に圧倒されて、生活の速さに圧倒されて、私は。 物事の価値を考えている猶予すらない。 大切だった、筈なのに。 足踏みを繰り返している。 何もしたくないと言っていた筈なのに。 いつの間にか、こんな、いつの間にかこんな遠くまで来てしまった。 あの人を置いていったのは私自身だった。あの人も、あの人も、 貴方も。 美しさに焦がれていた頃、貴方のことが世界で一番美しいと思っていた。 今、は何も見えない。美しさが見えなくなってしまった。 哀しいことではない、 当たり前だった、移りゆくこと、嗚呼。でも、ああ、でも、誰かに慰めて欲しかった。大切なものがまだ、内側に残っていると嘯いてほしかった。 傘を閉じたら青空が見えて欲しかった。届かない虹が見たかった。 同じ生き物の筈なのに、私たちはどうしてこうも違うんだろうね。私のこどくも君のこどくも、ぼくの身体に染み込んで頭がくらくらと。視界が歪んで、毒が回っている事を知る。 瞼を閉じて、痛みを雨の所為にして、 雨音が、雷が、鳴っている、頭上で。 守ってもらえる時代は知らぬ間に過ぎ去っていたんだね。 知る。 知っていくことで、どこかがまた一つ欠けていく、消えていく。 あの時、笑わないで泣けばよかった。 知っていたんだから、貴方が、貴方との道が(たが)ってしまうこと。 社会というものに馴染むほど、失っていくんだ。 そうだろう? 私の大切にしているもの、雨に流れていく。追いかけるより、言い訳を作ることに慣れてしまった。縋るより、諦めることに慣れてしまった。 直に忘れる、 あの宇宙も。あのぬくもりも。 「それでいいよ。」って、受け止めて、 嗚呼、 雨。
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