呼吸

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呼吸

指先が冷たくなる時間に、空白を覚える。 お腹が空くのと同じ感覚で空白を自覚する。 立ち止まって意識する、帰り道、行き道。 深夜、早朝。 誰にだってこの空白は埋めれないことを知っていた。 自分にさえも埋められないことを知っていた。 どんなに取り繕ったって思い出す、この空白。 渇いているのだ、いつも。どこかが。 渇きは、いつか飢えに変わることを知っているから、 思い出したように筆を取る。 自覚したら、輪郭をなぞれば、 吐き出してしまえば、 すこし痛むだけで済む。 楽しいと思ったことがない。 焦燥感だけだ。 幼い頃から哀しみが在った。 哀しみの輪郭を覚えたから、癖になってしまったんだね。 お腹が空くように、呼吸をするように、 感情の輪郭をなぞることが当たり前になってしまった。 幼い頃は 怒りとか悲しみとか悦びとか楽しさとかを無くしてしまえば、 楽になれると信じていた。 誤りだった。 幼い頃は いつか、誰かが救ってくれると信じていた。 誤りだった。 幼い頃から 自分は特別な人間だと思っている。 これも誤りだ。ただの、一人だ。 現実感がない、これだけの人生。 誰かの感情をなぞっているだけだ。 空白を、覚える。 空白を覚えている。 いつか渇く。いつか飢える。 それが、私は恐ろしい。
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